逆様と寝正月
寝正月、すばらしい響きだ。
寝正月、それは年末まで頑張った全ての人へのご褒美だ。
本来の寝正月は、福の神を家に招くとき、せわしなく掃除などをしていると福の神が帰ってしまうと言うことで、落ち着いて過ごすための風習らしい。
起源はともかく、寝正月はすばらしいものだということで。
「みかんおいしい……あいつの実家がみかん農家だったとは」
私は逆様とひたすらみかんを食べていた。
「こんな柑橘類のどこがおいしいんだか」
「逆様、皮の山を築き上げてる風体で説得力皆無だね」
「むう」
こたつは神様堕落装置として禁止されている我が家では、ホットカーペットにローテーブルという環境で、今ひたすらみかんを消費している。
「実家から届いたおせちもおいしかったし……来年は帰らないとなぁ」
『どうして帰らなかったの』
ICレコーダーから逆様の逆再生が聞こえる。
クリスマスプレゼントの一件以来、逆様とのコミュニケーションはかなり円滑になった。
「逆様と神付きの契約をしたっていうのもあるからね、今は『概念固定体対策課』からの経過観察中なのよ」
ふーん、と相づちをうつ逆様。そして、興味を失ったのか、みかん攻略を再開した。
逆さまの首にぶら下がった、ネックストラップ付きのICレコーダーが、かちゃりとローテーブルにぶつかった。
そんな逆さまを見つつ、去年はいろんなことがあったなあ、と私は振り返る。
大学の編入に、『逆さま事件』と逆様との契約、『巨大スライムVS巨大わんこ事件』、神無月の神様集会。
国から正式に神付きと認められた場合は、レポートにまとめなきゃいけないんだろうな、と思うと気が滅入ってくる。
だけど、今じゃない。
今日は元旦、寝正月。ひたすらだらけて、新年を祝う日だ。
招くべき福の神は目の前で、黄色になった手でみかんを握りながら、船を漕いでいる。
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