湖の底には
湖の底に何がある?
そう聞かれて僕は頭をひねった。
「ドロ?」
ははは、そう女の子が笑った。
愛だよ。そう帰ってきた言葉にさらに首をひねった。
「愛って、なんだか情緒がある言葉だね」
ほんとうなのに。口を尖らせる彼女。
「可愛い顔をされてもな。信じられないよ」
そうなの?
「そうだよ」
でもね、湖は川と違って、愛が溜まるんだよ。
「愛よりも遺骸がたまりそうだけど」
それも愛だよ。
「遺骸が?」
すべての愛は命のかたちだよ。いのちはあいのためにあるんだよ。
「さる高名な科学者は、生命は遺伝子の運び手とか言ってたけど」
そういうロマンのないかがくってきらいだなー。感情をすぐてばなしたがるし。
「理性的といってほしいけど」
ひとはいきるためにかんじょうをかくとくしたんだよ?
それこそ、愛と憎しを分けるために。
すきはじぶんのため、きらいもじぶんのため。
生きるために必要な感情をろんりのためにきりすてるのは、ただのしこうていしだよ。
それこそ、そんなことはロボットにやらせればいい。
「……なるほど、感情は生きるために獲得した、か」
だから、感情を忌避するかがくはきらい。
理性が合理性なら、本能こそ最強の理性じゃない?
「一理ある……か?」
だから、湖の底に沈んでるんだよ。その時代にいきた愛のかたちが。
「ドロとして?」
……たしかに、そうだけどさ。
「ロマンティックだね、キミはさ」
ロマンと愛がないとだめだと思ってるからね。
彼女はそう言って、湖面に映っているまん丸い月のような笑顔を僕に向けた。
その笑顔を見て、たしかに、湖の底には愛が落ちているのだと想った。
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