魔族討伐隊

 その幼い目には何が映ったのだろうか。

 男は、ふと、そう考えた。


「今回でしばらく休みだ」

「よっしゃ、久しぶりの街だ」

「さすがに根ばかりだときついからな」


 魔族討伐隊第一師団。

 人が住む場所である世界樹の巡り、人類の害悪である魔族を狩る、国際軍隊だ。

 葉の上にある人類の領域を守るため、根に居座ろうとする魔族を討伐する。

 神代から続く由緒ある仕事だ。


「しかし、今回の魔族は人型が多かったな」

「おそらく、大地の方で戦争でもあったんだろう」

「へえ、大地の方で」

「ああ。大地は魔族の王、魔王どもが戦争をしているという話だ」

「あんな作物も育たない土地で?」

「それでも、領地にはかわりないさ」


 歴戦の男達ははは、と話している。

 しかし、縮こまっている男は、先ほど討伐した幼い魔族の目が忘れられなかった。


「魔族って、何でいるんだろう」

「はは、新人が魔族病を煩ってやがる」

「魔族病?」

「ああ、魔族の存在理由とか、殺して良い存在なのか、とかそんなことを考えることを魔族病っていうんだ。新人はよく煩う」

「でも、さっきの魔族は人だった」

「でも、魔族だ。やつらをこの樹にのさばらせるわけにはいかん。

 根に生かしていると、幹に居座り、いずれ登って葉を埋め尽くすだろう。

 生存競争なんだよ。やらなきゃ、俺たちは死んでしまう」

「……」

「割り切れ。それでもつらいってんなら、人型以外の討伐か、後方支援にいかせてやる」

「……はい」

「新人、疑うことを忘れるなとは言わんが、俺たちには人々の命を背負っている。それを忘れんな」

「はい…!」


 指揮官である男は、新人の決意ある言葉に満足した。


 よし、これで騙せた、と。

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