豪雨BMG

 滝のような雨が降っている。


 それ自体はこの異常気象が蔓延る時代では珍しくない光景だ。


 少年は自席の隣にある窓から見ていた。


 教室では、今も教師が声を張り上げながら、豪雨の音と競っている。


 生徒はそれを辟易としながら聞いていたり、眠っていたり、情報端末をいじっている。


 少年はふと、窓の下の方を見た。


 川のようになった校庭トラックの真ん中に、人がいた。


 番傘を持ち、着物を着た少女がいた。


 やたらめったら古風な少女は、この豪雨の中、凜と立っている。


 不審者か? と少年は思ったが、その佇まいの立派さ故か、とても気になった。


 ならば、と少年は喉がかれそうな教師に体調不良を告げ、教室に別れを告げた。


 教師は、自分が保健室に行きたい、と文句を言った。


 ビニール傘を少年は手に取り、天からの衝撃に耐えつつ、グラウンドの真ん中へ進む。


 靴はもう水たまりで、ズボンは脱がないと椅子に座れないだろう。言わずもがな、シャツは肌にびったりと着いている。


 そして、少年は少女に辿り着いた。


 やあ、と少年は少女に声をかけた。


 あら、と少女は驚いた顔を見せる。


 少女と少年は向かいあい、しばらく音が消えた。


 くすり、少女は笑った。


 なにもそんな姿になってまで、ここに来る必要は無かったでしょう。


 少年は、はは、と笑う。


 でも、こんなかわいい子を近くで見られたなら、やっぱり来て良かった。


 少女の白い顔は赤面した。


 あまりにも非日常な少女に、光に誘われゆらゆら近づく蛾のように近づいた少年だったが、その顔が見られただけでも、この行いは運命なのだろうと思った。


 後日、少年は少女を娶ることとなる。

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