トウキオレッドブック

「東京行ってなにするのさ」と友達にいわれたとき、俺は何も考えていないことに気づいた。


 とりあえず、その本には「東京に行くこと」という手順しか書いていなかったのだ。


 一ヵ月後、新しい手順が送られてくるというから、とにもかくにも、俺は東京に行かなければならなかった。


 東京について部屋をきめ、衣食住を持つためにアルバイトを始めたころ、二冊目が届いた。


 二冊目には、『本を読むこと』という手順と、読む本が事細かに30冊ほど。


 アルバイトの合間の暇があれば本を読み、30冊を読み終えると、なぜか無性にこの世界が面白く思えたのが印象に残っている。


 三冊目がきた。


 『風景を書くこと』という手順と、書くモチーフとなる場所の一覧が事細かに10地点ほど。


 アルバイトで稼いだお金は、ペンと紙と移動代に消えた。


 だけど、自分の見た風景がそのまま文章となって残っていくことが面白くて、夢中で書き進めた。


 書き進めるうちに、周りの人々の面白さを書きたくなってきた。


 そして、俺は、物語を考えるようになった。


 そこから、その本が来ることがなくなった。



 今となっては、その本をどうやって手に入れたのか、どうやって俺の新居に届いたのか、わからない。


 その本があったかという事実も、本の森となった自宅から探すのは困難だろう。


 しかし、確かにその本は実在し、この俺の人生を変えてくれた。


 今では、本を執筆する立場になった自分へ導いた本。


 だけど、なんであの本は、あんなに赤い色をしていたのだろう。

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