窓の向こう側

――古来より、窓は外を見る扉であり、空気を入れ換えるためのものであり、外から隔て、たまに繋げる特殊な境界だ。


 そこから魔術的要素を逆算すると、境界の向こうを見るための窓、境界の向こうと現世を混ぜ入れるモノ、閉じた結界の特異点だ。


「しかし、あちらを見るための窓は、逆に言えばあちらの者もこちらを見ることが出来る窓でもある」


「はい、師匠」


「だから、これから教える窓の魔法は、まず窓を設置する場所を決めることが重要となる。分かるか?」


「あちらの者がこちらを見ないよう、何もいないかを確認するためですね」


「そうだ。ただ、確認するにも窓が必要なんだが」


「……それって、矛盾してません?」


「いや、そうでもない。魔術と言うものは、無駄と思える儀式にも意味があるのだ」


「はあ」


「まず、周りを確認するために、死にかけの窓を用意する」


「死にかけの窓?」


「たとえば、蝶番が壊れかけた窓。これは強く閉めようとすると窓が窓枠にはまらなくなり、窓という機能が壊れる。つまり、窓でなくなる」


「概念的な窓を壊すことで、一回しか使えない境界を作り出す、ということですか?」


「そうだ。そんな窓で慎重に探し、危なくなったら窓を壊して逃げるのだ」


「なるほど」


「それと、窓の魔術は向こうの強大な力を得るために重要な魔術だが、使いすぎると向こうの者にばれる。扱いはゆめゆめ慎重にな」


「はい、師匠」


 私は忘れていた。師匠の教えを忘れていた。


 私は、失敗した。


 失敗したが故に、私は向こうにいる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る