人生手帳

 彼は完璧な彼氏だ。


 もちろん、人間的に完璧、とはいいづらいけど、私が今何をほしがっているのか、何をしてほしいのか、まるで私の頭を読んでいるかのように、応じてくれる。


 そんな彼のやさしさが好きで今、恋人になっているのだけど、私は時々不安になる。


 なんで、そこまで、私のことをわかってくれるのだろう、と。


 いま、私の手には、彼のスマートフォンがある。


 ロック画面を解除して、アプリ選択画面まで進む。


 彼はシンプルを好んでいるので、そうアプリは多く入っていなかった。


 そんな中、ひとつ、気になるアプリがあった。


『あなたの人生手帳』


 そのアプリを開くと、彼の一日の予定が載っていた。


 ただのTODOリストかな、と思っていると、今日の日付より『未来』の日付があった。


 明日は、私と遊園地へデートの約束だった。


 そこには、何を買ったら私が喜ぶとか、私が何に乗りたいとか、私がどんなところが敏感とかそんなことが事細かに、まるで手引書のように、載っていた。


 彼自身が書いたのかなと思ったけど、そのアプリは、書き込むなんて機能がなかった。


 まるで、このアプリが私のことを知っているかのように、彼の人生の手順を、書いている。


 私は、背骨に氷を入れられたかのような寒さを感じながら、そのアプリを読み続けた。


 未来の日付のほかにも、こんなときはどうする? などの対処法も事細かに載っていた。


 本当に、これは、人生の手順書だった。


 そして、最後のページに進んだ。


 そのタイトルは。



「あなたも読んでしまったのですね」



 彼の言葉が、後ろから聞こえた。


「次は、ちゃんとパスコードを設定しないといけませんね」


 彼のため息が聞こえる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る