てのひらの上の即興噺

犬ガオ

逆様と私

 逆さまが好きなのはコウモリと天邪鬼と相場が決まっている。


 そういったのは彼だけど、私は今、なるほど、と納得した。


「サカサマ、なんで逆立ちしながら寝てるの……?」


 大黒柱に背中をつけつつ、頭を地につけて逆立ちをしながら寝る赤髪の少女に、私はため息をついた。


 私は、この可逆の神、逆様の付き人になってから、未だにこの神様のスタイルをわかりかねていた。


 この世にあらゆる概念が神様となったときから、神科学という分野は発展してきた。


 その最前線にいると私は自負していたけれど、やはり神様というのはまさしくこの世の不思議を凝縮して集めた存在なのだった。


 とくに逆様は、不可逆さえも可逆にしてしまう、「世界改変」レベルの神様。


 いくら棄てられた神とはいえ、その神様力は私の手に余るものだ。


「……寝るのに地に背中を付ける道理はないもん」


 起きてたんだ。私はがくりとうなだれる。


 ただ、最近はやっと逆様がいうことがわかるようになってきた。


「コーヒー入れたんだけど、要る?」

「要らないもん」


 コーヒーはほしい。


「ミルクは?」

「そんなお子様っぽいものこれっぽっちも」


 ミルクはほしい、しかもたっぷりと。


「砂糖は?」

「2つに割って捨てればいい」

「二個ね」


 二分の一を反対にして二個。


 ってああ、もう、わかりにくい!


「はい、できたよ。飲むなら逆立ちやめたら」


「そのまま飲めるもん」


「……」


 ちょっとカチンときたので、ストローを持ってきて熱々のコーヒーに挿した。


 逆様がやけどしそうになったのは言うまでもない。

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