第43話 終幕・踏み込む勇気
部活が終わり、晴と葉月がともに帰宅した。夏という季節柄、全身が汗でベトベトだった。
「さき、シャワー使いなさい」
晴はそう言って、自分は夕食の調理に取り掛かろうと手を洗った。しかし、葉月は浴室に向かうことなく、晴の後ろに立っていた。
「葉月?」と晴は振り返って首をかしげた。「どこか痛いの?」
「いっしょに入ろう」葉月が言った。「いっしょにお風呂、入ろうよ」
でも、と晴は無意識に体を隠すような仕草をした。
「やめてよ、いまさら。言ったでしょ。見られたくないって」
「なんで?」
晴は歯ぎしりした。ときどき、葉月の無神経さに腹が立つ。そんなことをわざわざ言わせないで欲しかった。
「汚れてるのよ、わたし。あんたにだけは、見られたくない」
「汚くなんてないよ」葉月は声の震えを隠そうともせずに言った。晴は鳥肌が一気に立つのを感じた。いままで、ずっと言って欲しかったことば。けれど、怖くて聞けなかったことば。涙がこみ上げてきて、それを見られないように隠した。
「晴は汚くなんかないよ」
葉月は不安そうに、しかし力強くそう言って、晴を後ろから抱きしめた。
葉月正拳突き 音水薫 @k-otomiju
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