第17話 大会目前
市をふたつに分断する大きな河川の東側。市民プールと労災病院に挟まれる形で市民体育館が存在していた。その日、この場所で全国高校剣道大会地区予選が行われることになっていた。ここで勝利した一チームだけが県大会に出場することができる。とはいえ、彼女たちが住んでいた市には高校が六つしかなく、総当たり戦で勝利数がもっとも多い高校が県大会に進むことができる。そのため、一度の敗北で夢敗れるということはない。
晴がさきに行ってしまったせいで寝過ごした葉月が集合場所である体育館の玄関前に到着したとき、すでに絵理と文子が彼女を待っていた。応援は制服で、という学校からのお達しもあり、彼女たちはいつもと変わらない制服姿だった。文子は文庫本に目を落とし、絵理は瞑想でもするように目を閉じて腕組みして柱にもたれかかったまま動かない。ふたりの間に会話はなく、不自然に空けられた人ひとりぶんの空間が寒々しい。葉月は晴の助けなしに彼女たちの間に挟まれなくてはならないのかと思うとすこし胃が痛くなった。階段を昇っていくと、彼女に気がついた絵理は柱から体を起こして肩のあたりで小さく手を振った。
「遅かったわね」
「晴は?」
「剣道部の方々と揃って入場致しました」
我々は選手控え室には立ち入り禁止のようですから会うことは難しいかもしれません、と文子からの情報を聞き、葉月は表情を曇らせた。晴に一言でも応援のことばを送りたかったのに、と。
「そういえば、晴から伝言を預かりましたよ」
「?」
「『絶対勝つから』と」
そう言って笑っていただろう晴の表情が容易に想像でき、葉月はつられ笑いをした。
「さっさと行くわよ。席、埋まっちゃうじゃない」
絵理は葉月の手を引き、体育館に入っていく。靴を体育館シューズに履き替え、脱いだものはビニール袋に入れて自分で持ち歩く。靴箱から階段に向かう途中の廊下では竹刀の軽量が行われており、剣道着を身につけた選手たちが自身の武器を片手に列を成していた。このなかに晴はいるかな、と葉月が立ち止まって確認しようとすると、後ろから来ていた選手の親らしき人とぶつかりそうになる。
「邪魔になってはいけません。行きましょう」
文子に促されるまま、葉月はやや名残惜しそうに列を見ながら歩いたが、見える範囲に晴はいなかった。
二階に上がって辺りを見回すと思いのほか人がいて席が埋まっていたが、その埋まりかたにはばらつきがあった。
「どうやら、男子の試合場に近い席が人気のようですね」
競技場は六つに区切られており、各々の中心地にビニール製の畳が敷き詰められていた。入口に近い三つの区画が男子用で、奥の三つが女子用のようであった。たかが六校の試合にこれほどの試合場が必要かといわれれば甚だ疑問だったが、これらは翌日行われる個人戦のために用意された数だった。
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