サナトリウム。もう治らない少女が一人入院している。
ずっと外の世界を知らずに生きて来た。
少女が慕う医師が一人そこにいて、彼は彼女を失いたくない。
檸檬は中庭に植えられている。そして少女の名前だ。
檸檬と聞くと、居ても立っても居られなくなってしまい
吸い寄せられるようにここに来た。
すっと入って来る文章は、景色を添えて佇んでいる。
死にゆく時はひとり。たった一人で行くのだけれど
それでも、死は彼女だけのものじゃなく
見守る人にとっても喪失で、そこからはじまる悲しみを思えば
決して一人占めできるものではない。共有する世界。
じわじわと迫って来るその時を待つ少女と
そんな日は来ないといいと願う医師と
その二人を傍観する看護師の三重の層になって
外側から透明な膜で包み込むように見つめる視線。
その日はダイレクトに描かれてはいない。
まるでしゃぼん玉の弾けた後。あっと気づくと消えてしまった。
だから私もそこに居て、映画を一本見たような、そんな気分になった。