二
「じゃあ、採血しますね」
看護師さんはもうあたしを子ども扱いしない。する必要がないと分かったから。あたしはずっとここにいるし、採血も点滴も慣れっこだ。なんといえばいいんだろう、きっと普通の子だったら蚊に刺されたり、日焼けして皮がむけたり、夢中になって遊んで転んでしまったり。そういう感じであたしは採血を受ける。当然痛いけれど、痛いのは一瞬だし、怖くない。まぁ、普通の子と言ったってあたしはそんな子に会ったことはない。先生の持っていた子どもの文化についての本にそう書いてあったのをなぞっただけで、あたしは日焼けだとか転んでしまうような遊びだとかを知らない。でも、きっと普通の子は外で遊ぶのを怖がらない。それと同じようにあたしも検査や治療を怖がることはない。
それにきっと、あたしはこうやって検査や治療をしないとすこしの間でさえ生きていられない。だからこれは仕方のないことでもあるんだ。
先生が前に教えてくれたこと。あたしにしている治療は、最先端のもの。だけれど、それでも病気に追いつかないんだって。それに、副作用であたしが寝たきりになってしまうかもしれないから、弱い治療しかしないんだって。
不便な体だなあ、と思う。不便な体だから、あたしはずっとここにいる。ここにしかいられない。けれど、ここには先生がいる。だからそれだけでいいけれど、先生がここからいなくなってしまったらと思うこともある。そう考えると、すこしだけ、苦しいような感じになる。
幽霊、というものがいることを図書室の本で読んだ。人が死んだら、そんな風になるみたい。あたしは、幽霊になりたい。だって、その方が絶対自由で、いなくなるかもしれない先生のことを考えて苦しいような感じになったりしないですむから。でも、その時先生は、どこにいるのだろう。
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