第13話 起爆

 {チュチェドの妖神・パート}

 目の前に直径五メートルもの黒い球体が浮遊している。

 対妖神爆弾。先程自分をウィルスだと解析しサイロが吐き出したモノ……。

 じきにそれが爆発するというのに、彼はサポート――この世界で言うところの神々の手先――妖術師たちがつくり上げた結界から抜け出すことができなかった。

 目玉を動かし辺りを見回す。もう周りには誰もいない。爆弾を吐き出したサイロもない。誰も彼もが避難したものと見える。彼は体内に残された残りのエネルギーと圧縮された自身のバックアップデータを右手に集中させ、結界の外に逃れようとする。


 もう少し……、あと僅か、身体の中を血が逆流し、千切れるまで伸ばしきった指先は痙攣している。激しく噛み締める口の中の血の味は既にない。何でもいい、後ほんの少し。藁一本、紙一重、何でもいいのだ、それだけさえ進めたらここから出られるというのに。畜生。

 怒りを押し流す絶望の波に揉まれて気が遠くなっていく。矢のごとく全身をつがえるが、弦は震えそして遂には断ち切れる。全身から力が抜け、押し戻す力に屈する。永遠の牢獄に再び連れ戻される。

 「出してくれぇ!」

 彼の叫び声は誰にも聞かれることもなく深い霧の中に吸い込まれていった。

 そして、

 爆発。


 爆発の閃光と共に、速やかに妖神は消去されてゆき、数秒後には跡形もなく妖神はいなくなったかに思われた。


 ぐちゃ。

 結界から這い出たのは小さな紫色のゲル状の物体? アメーバー? それはゆっくりと移動してゆき……。

 窪みを越えて霧の中へと消えていった。


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