第11話 密議
ショボは夢を見ていた。暗く深い夢を。
果たして城内だろうか。それともいずこの地での事なのか。密やかに闇の中で取り交わされる会話。謀略とは姿なき人殺しであり、血と呪いを呼ぶ予言の創造であり、死の泉である。
よく見れば二つの紋章が闇の中に浮かぶ。一つは赤丸の中の猛り狂う双頭の獅子、一つは青地に白い手袋と黒い髑髏。互いに顔を隠したまま――謀、全ては闇に潜むべし。
「……」
待つ髑髏。
「王が動いた」
獅子が喋る。
「それで……」
「何処かに使者を送った。四箇所へ。ギコ公も数に入っていた」
「どこへ?」
「いいや。分からん」
「知る手筈はないの?」
「無い。相変わらず近衛どもは融通が利かない。かのお方からの指示はないか?」
「直接にはないわ。ただ役割を演じるだけよ」
「…………」
しばしの沈黙。
第三の紋章が闇の中に現れる。青地に銀で交差する斧。斧も席に座り、口を開く。
「使者を葬る」
「…………」
「国を出たら直ちに外の者を使えという指示だ」
「…………」
「危ない橋は渡るまい。腕の立つ奴に心あたりがある。もちろん野盗か妖怪の仕業に見せるがな」
突如、斧の懐から目覚まし時計のような音が漏れ出す。
「失礼」
斧は立ち上がり闇の中に沈んだかと思うと、きっかり一分後に席に戻ってきた。どこか
彼は何らかの妖術通信を受信したらしい。
「合言葉が届いた」
二人合わせて
「何と?」
「今宵我ら星に集う」
「たったそれだけか」
ため息。
「何時、どこで、誰が、皆知らされていない。我々にすら」
「だけど、進行しているわ」
「本当に千年の間生き続けてきた化け猫にかなうのだろうか? 俺はどうも感付いているのではないかと思えるのだ」
「しかし、いずれにしろもう始まっている。今更我々の手ではどうする事も出来まい」
髑髏は、
「これが王の罠ではないと何故分かるの」
と自問し、すぐさま自ら答える。
「これしかないのでしょうね。我々の生き残る可能性は……」
斧は獅子に問う、
「障壁を築き上げるのにあと何日かかる?」
「ヘスハーンの月の輝く頃には終わらせる。ラオーグは何と言っているのだ」
髑髏は獅子の問いに答えた、
「相変わらず、壁石に向かって吠えているだけよ」
「まさか処刑されまいな」
「分からないわ。ただギコ公が居ない今、彼を殺せば黒将棋の相手が半分になる事だけは確かよ」
「奴には不運だが……我々は助かる。行方が掴めているという事だからな」
「ところでシィファーは大丈夫なのだろうな。奴に裏切られたら元も子もない」
「間違いないわ。彼女はモナキーンに復讐出来るというならば、例え混沌だろうが喜んで飛び込むでしょうね。……私自身、彼女に会うまで不安だったけれど」
「シィファーか。狂える白子よ」
「時は近いわ…………」
三つの紋章は水面に浮かぶ像のように揺らいで消えていく。消え去りながら、獅子は、
「だが我々の結束ほど当てにならないものはないのにな。こうも団結するとは。皆、良心のかけらもないが……恐怖の効用というわけか」
と独り言が最後まで闇の中に残った。
ショボは彼らの声に聞き覚えがあった。
まさか城の中に……。
だが、そこまでだった。再び彼は意識を失い、夢から覚める。
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