第6話 反乱までの経緯


アイオーナたちが絶対王より君命を受けて旅立ったのは五日前。旅立ったその日の夕方にラオーグとアヒャスパーが“人間だけの反乱の軍”を挙兵し、絶対王と彼を守る将軍たち直属のゾンビ兵に斬りかかったのだ。頂上の城の前、フォルトレーの荒涼たる大地は血に染まった。ゾンビ兵が不利を悟って全て頂上の城の中へと消えると、ラオーグはすぐさま軍を動かし頂上の城をぐるりと取り囲み陣を張った。

 なぜ城の地下牢に監禁されていたラオーグが、どうやって解放され一○○万もの軍勢を指揮できたのかはわからない。だが反乱までの経緯を辿ると、裏ではかなり計画的に事が進められていたかがアイオーナにも理解できた。

   ×   ×   ×

 二年ほど前からフォルトレーの南側の隣国ヴァラザード領内が南の辺境であるマサキ族に脅かされ、たびたび絶対王の元へヴァラザードからの使者が来ていたことはアイオーナたちも知っていた。マサキ族の戦闘部族の数はヴァラザード軍より遥かに少なく、国力から見ればヴァラザードの三○分の一にも満たない。にもかかわらずヴァラザード軍は南の彼らの領土へ侵攻するたびに返り討ちに合ってきた。

 四ヶ月前、ヴァラザード軍は敵数千人に対し二○万人という大軍団編成での会戦を挑んでもほぼ全滅の憂き目に遭っている。

 大軍団を率いた第三王子パルマーが非業の戦死を遂げた会戦は後に“パルマーの会戦”と呼ばれ、国境はチェバスを境に現在もなお緊張状態が続いている。

 ヴァラザード軍がどんな大部隊、大軍団をもってしても負け続けるのは、敵対するマサキ族の使う妖術と召喚術によるところが大きい。マサキ族の妖術師は大量の炎や氷、雷を敵に降らし、召喚師は天使や悪魔、巨人や竜たちを召喚して大部隊を駆逐したから……。

 ところがヴァラザード側には誰一人妖術を扱うものがいなかった。

 先々代のヴァラザードの王、ハークソバットは自身の妻を妖術で亡くし、“妖術”に対して深い憎しみを抱いた。彼は国内の妖術師と召喚師、妖術の知識だけしかない者でも斬って捨て、妖術関連の書物を全て焼き払った。妖術使いらへの弾圧と虐殺は熾烈を極め、数年のちのかの国には妖術を扱う者がいなくなった。

 次の代の王ハークコマンドも父親からのいいつけ通り、領内の村や街に定期的に兵を走らせて“妖術書狩り”を行い、書物は燃やされ、体制を批評するものは容赦なく兵に斬られた。旅の妖術師が国に入る関所を訪れても一切入れることを許さず、時には庇護する者も容赦なく斬られたほどだ。

 そのため、現国王ハークレイダーの代では王族と彼らを取り巻く貴族、騎士階級だけが自由と浪費を謳歌し、庶民は重税と過剰に強いられる労働にあえぎ、次々と飢餓で倒れるものも少なくない。

 ヴァラザード北方の焚書村……妖術を扱う者たちがここに集められ殺され続けられた結果、土地そのものが呪われ、そこで生まれた子のほとんどが呪いを受けて鬼のような外見を持ってしまう。

 その焚書村出身……国を捨て、フォルトレーに亡命し城に仕えること十五年後に宰相まで登りつめた……ラオーグは祖国の危機を鑑み、たびたび絶対王に対し軍を動かす許可を求めたがその度拒否された。絶対王モナキーンとラオーグの間は日々険悪になり、城内のあちこちで謀反の噂が立った。

 それから一年後、ラオーグは数名の部下を引き連れて絶対王の寝室に飛び込んだが、すでにそこには絶対王の姿はなく、王直属の武将たち……即ちテミドールとカイアス、メッキールらと彼らの部下たちが剣を抜いて待ち構えていた。絶対王の暗殺計画は、とうの昔に王の直属の部下たちの知るところであったのだ。

 ラオーグたちはその場で捕らえられ、眠りの妖術にかけられた後、ラオーグに同調した部下たちはことごとく斬り殺された。

 ラオーグ本人が眠りから覚めると、そこは頂上の城の遥か最下層の牢獄であった。

 そして鎖に繋がれ一日に一回の食事を与えられたまま二ヶ月後、絶対王はラオーグと面会した。何を話したのかは口外する者がおらず不明だが、ラオーグはそのまま牢に閉じ込められたまま九ヶ月が過ぎた。

 絶対王が“マサキ族討伐”という重い腰をあげたのはヴァラザードと交易する周辺諸国家、即ちドッチェス、ウルバーン、聖カグラなどの二○もの小さな国々の働きかけによるところが大きい。

 特に聖カグラの教皇アペオスは自らフォルトレーに直参し、絶対王に対して伏して願い出た。マサキ族は過去に絶対王が封印したはずの大邪神“撲殺王”を未だ奉じており、妖術使いのいないヴァラザードは数ヶ月ともたないであろうと。邪教が大国ヴァラザードを支配することはなんとしても避けねばならないと。

 絶対王は彼の説得で遂に折れ、フォルトレーを中心とした”マサキ族討伐”のための連合軍を”その日”に形成させたハズだった……。

 。“マサキ族討伐”のための一○○万もの連合軍はそっくりそのまま“人間だけの反乱の軍”となり、絶対王モナキーンに牙を向いた。頂上の城が抵抗できる時間はあまりにも少ない……。


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