第41話 前途多難な未来
何だかよくわからないまま事件は解決してしまった。性悪な学生サークル、ウルトラフリーの霧口氷河が彩花様をレイプしようと狙っていた。そこで彩花様は俺に接近し、ウルトラフリーの尻尾を掴む作戦を立てた。
霧口氷河と辰巳兄弟、そして学園フェミ協会の江向吹雪が繋がっている事から、ウルトラフリーを潰せば学園フェミ協会の計画も一緒に頓挫するという目論見だったのだろう。
俺は結局、彩花様に翻弄されただけなのか。いや、そうに違いない。あの霧口氷河が彩花様に手を出そうとしているのなら、彩花様と付き合っている男がいるならそれをどうにか排除しようとするはずだ。
そんな事だったんだ。
彩花様が軽々しく俺と付き合いたいとか言い始めたから、椿さんも玲香姉さんも藍でさえも競って俺に接近して来たんだ。普通に考えてこの俺がモテモテになったりするはずがない。藍だって俺に幻滅しているはずだ。彼女がレイプされそうになって大ピンチの時、助けるどころか俺は何もしてやれなかった。挙句に他の女性に抱きつかれてキスまでして、一時的にだが下半身が反応してしまってそれを藍に見られているのだ。
モテモテになった夢。
いい夢だった。
今までの俺には考えられなかった幸福な夢だ。
ほんの一時ではあるが、こんな夢を見せてくれた神様に感謝しよう。
朝の一時、ベッドの中でぼんやりと考え事をしていた。そろそろ起きる時間である。俺は目を開いてから目覚まし時計のアラームを切った。アラームが鳴る前にアラームを切る事が出来たのは何年振りだろうか。十分に睡眠が取れて体調が良い証拠なのだろう。
今日は月曜だ。さっさと着替えてから学校へ行くとしよう。
俺は手早く制服に着替え、カバンを抱えて一階へと降りたのだが……そこには何と皆さんが勢ぞろいしていたのだ。
「おはよう。緋色」
玲香姉さんだ。
「緋色、私たちまだ付き合ってるんだよ。(仮)が取れるまで頑張ろうね」
藍だ。何を頑張るんだろうか。
「緋色君。ウチと仲良うしてくれるんやろ」
女子の制服を着ている美海さん。
「弟君のお世話は私の仕事だよね。朝食の準備はできてるから」
自慢げに胸を張る椿さんだ。確かにテーブルの上には俺の朝食が用意してあった。
「ふむ。とりあえず今日のお弁当は私が作った。さあ弟君。これを持っていくがいい」
「ありがとうございます」
彩花様が作ったお弁当だ。白いハンカチに包まれた四角いそれは、かなり重量級のような感じがする。俺は周囲の視線に耐えながら、俺の為に用意された朝食に手を付ける。トーストにスクランブルエッグ、コーンスープと言う簡単なメニューだが椿さんがわざわざ用意してくれたと言うだけで嬉しいのは事実だ。
「弁当は当番制とした。月曜が私、火曜が玲香、水曜が椿で木曜が美海、そして金曜が藍だ」
何だか至れり尽くせりだ。昼休みに売店で並ばなくても良いのは助かる。
「ただし、お弁当は必ず生徒会室で食べること。抜け駆けは許さん」
抜け駆けとは何だろうか。
「私が緋色と同じクラスだから有利すぎるって、クレームが入ったの」
藍が説明してくれた。
何でそんな事が問題になるのか。
きょとんとしている俺に対し、更に藍が説明を続ける。
「だから、私たちは付き合ってるけど(仮)のままなの」
確かにそうだったな。付き合うが、しばらくは(仮)でと……。
ん? そうなのか?
「だから、(仮)が取れてみんなに認めてもらうまで、私は頑張るよ」
藍が頑張る?
いや、藍を守れなかった俺に愛想をつかしてるのでは?
「(仮)やと聞いてウチも立候補したんやで」
美海さんも何を言ってるの?
「私は譲るつもりはないぞ。弟君は私が射止める」
え? 彩花様まで何を言ってるんですか?
「おや? 弟君は納得していないようだな。繰り返すが、今この場にいる5名は全て、弟君の事が大好きで弟君と付き合いたいと希望している」
「マジですか」
「マジだ。よって今日から一か月間、皆が弟君に猛烈アピールを実施する。選ぶのは弟君で弟君の決定には皆が従う事になった。さあ、弟君。勝負の一ヶ月、よろしく頼むぞ」
「だからね。弟君のお世話は私がやります」
「姉の私だよね。緋色」
「(仮)でも優先権は私です」
「ウチも立候補しとるで」
消えてしまったと思っていたハーレム状態は消えてなかったんだ。しかも、男の娘の美海さんまで加わって……あの……俺は……どうすれば……いいの?
神様。
助けて。
【おしまい】
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