第37話 地獄の蓋が開くとき
あれれ。
俺、どうしたんだっけ?
すごく眠いような。
目が回っているような。
朦朧としていた意識はだんだんとはっきりしてきた。
目を開いてみる。天井が見える。
右手は動かせない。何かに縛られている。左手と両脚も同じだ。
どうやら簡易ベッドのパイプ部分に両手と両脚が縛り付けられているようだ。俺の左側は壁。右側の床には布団が敷いてあり、手足を縛られた美海さんが寝かされていた。その向こうには立派なダブルサイズのベッドがあり、そこには藍が寝かされていた。彼女の手足は縛られていなかった。
何があったのか記憶を辿ってみる。そうだ。辰巳家の大広間で合コンが開催され、俺と藍と美海さんが参加した。俺は王様ゲームの罰ゲームでミックスジュースを一気飲みさせられた。このジュースが美味しそうだったので、藍と美海さんも飲んだんだ。その後のカラオケで美海さんが突然歌えなくなって倒れてしまった。俺は彼女を助けようと思ったのだが体が動かなくなり目が回って意識を失った。
その後これだ。あのミックスジュースに何か睡眠薬のようなものが混ぜられていたんだ。そして意識を失って監禁されている。かなりヤバイ状況なのは間違いない。
これは怖い。はっきり言わなくても怖い。
今、俺の背筋に、本当に凍り付くような冷たい感覚が走っている。
しかし、俺たちをこんな目に合わせて何がしたいのだろうか。単なるいじめではないと思う。営利誘拐でもないはずだ。俺の家も藍の家も、身代金を要求されるような資産家ではない。
あるとすればいわゆる不純異性交遊なのだろうが、それなら普通に好きな者同士が絡むよう段取りをすればいい。わざわざ薬を使って眠らせるような真似をする必要がないし、手足を縛る意味がない。
これはひょっとすると、俺が考えているような不純な遊びではないのかもしれない。つまり、人身売買とか臓器売買とかに関わる重大な犯罪行為だとか。それとも、爪を一枚一枚剥がしたりとか、ロウソクに火をつけてロウを垂らしたりするような拷問をするとか、いやいやこれは考えるだけで痛いし熱いだろ。
「う、うーん」
お、藍が寝返りをうった。巨乳がぶるるんと揺れたのだが、藍は手足を縛られていない。そうだ。藍が目覚めてしまえば彼女の手で紐をほどいて逃げることができる。俺は藍にそっと声をかけた。
「藍。藍。起きてるか?」
反応がない。
もう少し大きな声で話しかけてみる。
「藍。起きろ。藍」
「う……うーん」
いい夢でも見ているのだろうか。幸せそうな寝顔だが、その無垢な表情が返って危機感を煽る。
「藍。起きろ。藍」
しかし藍は目覚めない。
ふと、周囲から何やら嬌声やら悲鳴やらが聞こえてきているのに気付いた。聞き耳を立ててみる。
「あん、あん」
「ああ。そこ、気持ちいいわ」
「いやあ。止めて! 許して!」
「嫌! 痛い!」
複数のモニターでAV鑑賞会を、大音響で同時に行っている……とは思えない。実際にレイプしているのではなかろうか。そして、何組かのカップルが性行為に励んでいるのか。
ああ。なんてこった。
ちょっと信じられないのだが、いわゆる乱交パーティーが行われているのか。そして俺たちは、そのパーティーの余興的な素材として確保されているのかもしれない。
俺はまだ女性経験は無い。自分の好きな女性と初体験ができたらいいと思っている。その好きな女性が藍なのか玲香姉さんなのか、それとも彩花様や椿さんなのかはっきりしていない。いや、俺は(仮)ではあるけれども藍と付き合っているのだ。このまま藍と付き合って将来結婚するのも良いだろう。ただし、他の可能性を否定しきれない自分がいる事も確かだ。
彩花様や玲香姉さん、そして椿さんに憧れるこの心情も事実だ。
いやいや、こんな自分の初体験がどうのこうのと心配している場合じゃないだろう。その場のノリで性的興奮して乱交してしまうような連中に藍が犯されたらどうするんだ?
女性が性行為を無理強いされるならどれほど深い傷を負うのだろうか。心と体、両方だ。
藍をそんな目に合わせるわけにはいかない。何としてもこの場から逃げ出さなくてはいけない。
「藍。起きろ! 藍!」
やや、声を荒げて叫んだ。
見つかっても構わない。そんな気持ちだった。
その時、ガチャリとドアが開いた。
中に入ってきたのは素っ裸の霧口氷河と清十郎と藤次郎だった。その後ろから越ケ浜佳澄と河添菜々恵、江向吹雪がつづいて来た。男連中は全裸。女性三名は全裸の上にバスローブを羽織っているだけだった。
これは……俺の予想した乱交パーティーが正解だったのか。人身売買や臓器摘出などはまあフィクションの世界の話であろう。セックスの方が現実的なんだ。
「緋色君? 目覚めてるね」
優し気に声をかけてくるのは霧口氷河だ。
「何がしたいんだ。さっさとロープをほどけよ。訴えるぞ」
やや怒気を込めて叫んだ。しかし、連中はニヤニヤ笑うだけだ。しかも素っ裸なのでふざけているようにしか見えない。
「ふざけるな。こういうのは犯罪行為なんだぞ。さっさとほどけ!」
「まあまあ。落ち着こうよ、緋色君」
「ああ? ならさっさとロープをほどけ。俺はこんな緊縛プレイなんか望んじゃいない」
「まあまあ。君に酷い事をするつもりはないよ。後でね、ぴちぴちの女子高生に可愛がってもらえるからさ」
霧口氷河が顎をしゃくる。越ケ浜佳澄と河添菜々恵がにやりと笑ってバスローブを脱ぎ捨てた。二人共わりとぽっちゃり系で、豊かな胸がぶるるんと揺れる。
河添奈々恵が俺の太ももを撫でながら熱い吐息を吐いた。
「緋色君の事、さっきから気になってたんだ。だから私といい事しようよ。絶対気持ち良くしてあげる。佳澄ちゃんと一緒にね。忘れられない初体験になると思うよ。君はまだ童貞なんでしょ」
河添奈々恵と越ケ浜佳澄が俺に覆いかぶさってきた。二人で俺の胸に顔を埋めしきりに太ももや腹を撫でまわしてくる。
ヤバイ。ややぽっちゃり系で可愛いい系で、素っ裸の二人に密着されて興奮してきた。これは本当にヤバイ。俺の下半身がモロに反応してしまったのだが、その時ちょうど江向吹雪が声を荒げて制止した。
「ちょっと待ちな。そいつの料理は後回しだ」
何だって?
もしかして藍や美海さんに暴行するつもりなのか?
「緋色君だったな。君も薄々感づいているだろう。今日のメインディッシュはそこのおデブちゃんと男の娘だ。君はまあ、余興になるかな」
「余興だと?」
こいつらは本気だった。
藍と美海さんが極めて危険な目に晒される。
俺は何とかしようと焦った。しかし、越ケ浜佳澄に唇を塞がれて叫ぶこともできなかった。
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