第28話 至福の大盛り料理
「うわあ、凄い凄い」
海賊船に見立てた長細い深皿に二種のパスタが盛られている。それを目の前にして大いにはしゃいでいる藍である。普通、女子高生と言えばダイエットだのなんだのと食が細かったりするものだが、彼女の場合はそんな事はない。まあ、あの豊満な体形を見ればわかる。ダイエットなど眼中にはなく、美味しいものは美味しくいただく主義だという事がよくわかる。それは俺も藤次郎も同じだった。
「藍ちゃん、そんなに食べるの?」
「うん。これくらいは平気だよ。ね、緋色」
「そうだね」
ジロリと藤次郎に睨まれる。俺と藍が仲良しなのが気に入らないらしい。しかし、(仮)とはいえ俺と藍は付き合っているんだ。藍に関しての優先権は俺にある。
「お待たせしました」
続いて俺のかつ丼セットと藤次郎の大盛りハンバーグセットがテーブルの上に並べられた。ワゴンを押して持ってきてくれたのは彩花様だった。
パチリと片目を閉じてウィンクし、引き締まったヒップを軽く揺らしながら去っていくその後ろ姿に思わず見とれてしまうのだが、左腕に鋭い痛みを感じた。藍がつねっていたのだ。
「ははは。緋色君、デート中の他の女性に見とれたらダメじゃないか」
「そうだよ緋色。あんなスタイルがいいお姉さんと比べられたら、私の立場なんて無くなっちゃうんだから」
「大丈夫だよ。あんな高根の花みたいなお姉さんよりも、身近で可愛らしい藍ちゃんの方が100倍素敵さ。な、緋色君」
歯の浮くようなセリフを臆面もなく吐き出すのは腹立たしい。俺は勇気を出して藍の右手を握ってみた。そして彼女と見つめ合う。
これ……めちゃくちゃ恥ずかしいんだが……この状態から元に戻るにはどうしたらいいんだ?
「はいはい。冷めないうちにたべようよ。ね」
藤次郎の一言で俺は藍から目線を外して正面を向くことができた。やはり彼はイケメンだ。こういう周囲への気配りなんて、なかなかできる事じゃない。ここは素直に敬意を払っておこう。
俺たちはそれぞれ、大盛りの料理に取り掛かった。俺はかつ丼ときつねうどんのセットだし、藤次郎のハンバーグは通常の三倍はあろうかという大きなものだったし、藍のパスタセットはカルボナーラとミートソースが海賊船に盛ってある豪華なものだった。軽く二~三人分はあろうかというそれぞれの料理だったが、俺たち三人はそれを苦も無く平らげてしまう。
「あー美味しかったね。デザートはどうする?」
藍はまだ食べるのか?
俺と藤次郎が同時に藍を見つめてしまう。
「やだなあ。冗談だよ、冗談」
照れくさそう笑っている藍なのだが、俺はもちろん彼女の言葉を信じていなかったし、藤次郎も俺と同じ気持ちだったようだ。藍はデザートが食べたかったのだと。
会計を済ませてカフェ〝スピットファイア〟を出る。
「ねえ緋色。今から藤次郎君の家に行ってスプラX3をやりたいんだけど、いいかな」
「ああ。でもあれ、携帯ゲーム機用なんじゃないのか? 一旦家に帰らなきゃ」
「大丈夫よ、お兄さんのスイッチが貸してもらえるんだって」
「いいのか?」
「大丈夫だよ」
藤次郎は笑顔で頷いていた。
「さっき兄貴に連絡したから大丈夫。それと、緋色君がもしよければなんだけど、どきメモの方も兄貴に借りれたんだ。もちろん、僕の部屋でプレイできるからね」
「いいの?」
「だいじょうぶさ」
「後で何か要求されたりしない?」
「もちろん。緋色君は僕の大切な友達だからね。兄貴の好きにはさせないよ」
「ありがとう」
白い歯をきらりと輝かせながら笑う藤次郎である。こいつはやっぱりイケメンだ。容姿が良いのは当然だが、男女分け隔てなく明るく優しく振舞える事に感心してしまう。
「じゃあさ、おやつと飲み物を仕入れて僕の家に行こう」
「うん、行こう行こう」
藍も嬉しそうだ。俺たちは一階の食品売り場へと直行し、スナック菓子やチョコ、炭酸飲料などを仕入れた。買い物袋を抱えて向かった先はタクシー乗り場だった。
「タクシー使うの?」
「そうだね。来るときは江向家の車で来たんだよ。だから、帰りは元々タクシー使う予定だった」
お金持ちの家は違う。俺だったら交通機関を使うし、2キロ程度なら歩くのが普通だ。
「さあ行こう」
「贅沢かも」
「ははは。こういうのは気にしちゃダメだよ。タクシー代はもちろん僕が持つから」
割り勘にすると言わないところも男前だ。ああ、何だろう。猛烈に対抗心が沸き上がってくるのだが、じゃあ俺なら何ができるのかと言えば……何もない。
残念な気持ちを抱えたまま俺はタクシーに乗り込む。俺と藍が後部座席、藤次郎は助手席に座った。ショッピングモールを出たタクシーは7~8分ほど走っただろうか。藤次郎の屋敷へと到着した。
噂には聞いていたが、和風の古い屋敷だった。立派な木造の門が構えており、漆喰で塗られた塀も立派で瓦葺きとなっていた。
「さあこっちだよ」
藤次郎に連れられ、でっかい門から10メートルほど先にある車庫へと通じる大きな通用門の方から屋敷へと入る。玄関ではなく裏側へと向かい、それでも我が家の玄関よりは大きな勝手口から屋内に入った。
古いが立派な木造で、やたら大きい。そして、家の中の間取りがさっぱりわからない。他所の家に行った時でも少し中を覗けば、普通の住宅なら何となく間取りはわかるものだ。玄関から入ってトイレと風呂と、リビングとキッチン、階段と客間などだ。
しかし、この辰巳家は庶民の一戸建て数軒分は有ろうかという大きさで、俺なんかの想像を絶する建物なのは間違いない。家の間取りなど、全然想像できなかったのだ。
「こっちだよ」
藤次郎に誘われて家の中へと上がり込んだ。藤次郎の部屋は直ぐ左にあった。彼がドアを開けた途端、中から甲高い女性の声がした。
「
部屋の中から顔を出したのは、まるで小学生のような小柄で華奢な女性だった。
「あ、友達連れて来たんだ。ウチは
彼女は茶髪のツインテールと大きな瞳がめちゃくちゃ可愛いギャル系美少女で、そしてやっぱり見た目通りのギャル口調だった。
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