第27話 ミリタリー系カフェ〝スピットファイア〟
俺たちが向かったのは最上階の4階にあるカフェ〝スピットファイア〟である。この店は学園のすぐ傍にあるカフェ〝シャーマン・ファイアフライ〟の姉妹店となる。
この店は俺たち竜王学園の生徒にはお馴染みなのだが、とある特徴がある。それはオーナーがミリタリーマニアで軍事関係の装飾で店内を統一している事だ。シャーマン・ファイアフライの方は主に戦車関係の装飾となっており、店内入り口のドアがマジな鋼鉄製だったりする。そして店内には戦車の写真や模型が幾つも飾ってあるし、本物のタイガー戦車の転輪も展示されている。こちらのスピットファイアの方は主に航空関係の装飾になっている。主に大戦期のレシプロ機の写真や模型が多い。英国の戦闘機スピットファイアの実物のプロペラが展示してあるのも驚きだ。
「私、こっちに来るのは初めてだよ。飛行機ばっかりだね」
「僕も。学園の近くにあるファイアフライの方は時々行くんだけどね」
そうなのか。俺は親父がミリタリーものが好きなので、ちょくちょく連れてこられていた。この店に飾ってあるレシプロ戦闘機の名前は大体わかっているつもりだ。
ホール中央にぶら下がっているのはスピットファイア。店の名前にもなっている英国の戦闘機だ。そして壁には大型のパネルに写真が掲示されている。日本の一式戦闘機とドイツのフォッケウルフ190、旧ソ連機のYak1だ。このYak1は女性のエースパイロットが搭乗していた機体として有名らしい。旧ソ連には女性パイロットがいて、彼女達も大活躍していた。日本やアメリカ、ドイツなどではそんな例はないらしい。まあ、親父に仕込まれた知識なので内容を詳しく知っているわけじゃない。
まだ昼前なので客はまばらだ。俺たちは眺めの良い窓際の席に陣取った。俺と藍が隣同士で藤次郎が向いに座る。
「ねえねえ緋色。これ、昔の戦闘機だよね」
藍がテーブルに飾ってあるパネルを指さして尋ねてきた。うむ。プロペラ機の透視図だったが、翼には国籍マークが描かれている。白の細い帯の上に青い丸の中に白の星。これは米軍機だ。
「多分、P47かなあ」
「本当だ。下の方にP47って書いてある。サンダーボルト?」
「こっち側には説明文があるよ。リパブリック社が開発した重戦闘機だって。ほら」
藤次郎がパネルをひょいと掴んでこちらに向けてくれた。なるほど。詳しい緒元が記載してある。大出力の空冷星型エンジンとターボ過給機。そして重武装。高度性能と速度性能に優れた戦闘機。頑丈な機体を生かし戦闘爆撃機としても活躍したとある。
「へええ。ターボってさ。車だったらエンジンのすぐ上にあるじゃん。でも、この機種はエンジンからかなり離れてるよね。ここ、操縦席の下側に設置してある」
「そうなの?」
今度は藍がパネルをひっくり返すのだが、肝心のターボがわからないらしい。
「どれがターボなの?」
「これだよ」
操縦席の下を指さして教えてやる。
「なるほど。確かにエンジンから離れてるよ。どうしてこんなになってるのかな」
「多分、熱的な問題だったと思う。当時、ターボは最先端技術で取り扱いが難しかったらしいよ。エンジンから距離を取る事で排熱を低くできるからトラブルが減ったって話だよ」
「そうなんだ。緋色、詳しいんだね」
「いやいや。親父に聞いたことがあって、それが頭に入ってたんだ」
「ふーん」
何故か羨望の眼差しで見つめられている。ちょっと気持ちがいいかもしれない。
「それはそうと注文しようよ。何を食べますか?」
確かにそうだ。先に注文してしまった方がいい。飛行機の話はその後でも十分だし。
「私はねえ。これ、コルセアのパスタセットにする。海の幸満載だって」
「じゃあ俺は疾風のかつ丼セット。かつ丼ときつねうどんだ」
「僕はサンダーボルトの大盛りハンバーグセットで」
三人ともさっくりと注文を決めてしまった。メニューには航空機の名称やニックネームを取り入れているらしい。よく見ると、『性悪女のリゾット』とか、『癇癪もちのちらし寿司』などの訳の分からないメニューもあった。どんなものか興味があったのだが、無難なメニューを選んでしまったのだ。それは藍も藤次郎も同じだったらしい。俺たちはタッチパネルを操作して注文を済ますのだが、水を持ってきたウェイトレスのお姉さんは、なかなか凛々しい軍服姿だった。
半袖のカッターシャツに白いタイトスカート。棒ネクタイは青のストライプだ。彼女のスマートな体形とポニーテールは見覚えがある……と思ったら彩花様だった。
彩花様だと気づいた俺にパチリとウィンクをするのだが、よく見ると玲香姉さんも椿さんも、彩花様と同じ空軍将校のような制服を着てるじゃないか。一体どうなっているんだろうか? 店のオーナーが彩花様の親衛隊なのか? それならば説明は付きそうだが、しかし、そんな事をしても良いのか?
「ねえ、緋色。あのお姉さんに見とれてるの?」
「ごめん」
「いいよいいよ。女の子なのにカッコイイよね。女子大生かなあ」
「さあ」
藍は気付いてないのか。俺は知らん顔でとぼけてみる。
「いやいや、あのお姉さんは本当にカッコイイよ。惚れてしまいそうだよ。緋色君も同じだろ?」
藤次郎も気づいていない。マジかよ?
「うーん。俺は今、藍一筋だから」
言ってしまった。
我ながらこれは恥ずかしい。
「嬉しい!」
藍が俺の腕に抱きついて来た。あのGカップの巨乳が俺の腕に押し付けられる。この柔らかい感触は例えようのない幸福感をもたらす。そして同何より藤次郎の目線も痛い。やはり嫉妬しているのか。
俺はその圧に耐え兼ねて周囲を見渡すのだが、彩花様と椿さんと玲香姉さんの三人にも睨まれていた。
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