第26話 モテモテなのか非モテなのか
藤次郎と藍は、例の「スプラX3」について熱く語り合っている。自分が蚊帳の外にいるようで何だか面白くない。さっきは藤次郎にリア充だと言われて舞い上がってしまったのだが、それは大間違いだと気づいた。
そうだ。俺はリア充なんかじゃない。藍とより親密になり(仮)の彼女になったわけだが、藍が他の男子と楽しそうに話しているだけで嫉妬心が沸き上がってくるじゃないか。彼女との関係が本当に充実しているならこんな気持ちにはならないはずだ。うわべだけのリア充とはこんなに寂しいものなのかと愕然としてしまう。
「おい、藤次郎。何してんだ?」
このドスの利いた声は聞き覚えがある。これはあの人だ。
「あ、兄さん。今日はゲームを買いに来たんだ」
「ほう、そういえばスプラX3を買うって言ってたな」
「そうだよ。こっちはクラスメイトの宮野坂さん。彼女もスプラX3を買うんだって」
そう、あのいがぐり頭で岩石面の自称武道家な辰巳清十郎だ。しかも真正のゲイらしくて健全な男子にとって危険な存在らしい。
「ほほう。仲良しな二人がスプラX3を買って休日を楽しむ訳だ。良きかな良きかな」
岩石面の清十郎がニヤニヤ笑っている。中々キモイ図柄だが逃げるわけにはいかない。ここはやはり、藍を守る行動を取るべきだろう。
「俺と藍は、この後一緒にゲームをする約束をしてるんですよ」
約束したのは明日なのだが嘘も方便だ。
「だから、今日は無理です」
「なるほど。俺としては緋色君と美少女ゲームがしたかったんだけどな。この前言った〝どきメモ10〟だけど、緋色君はあのシリーズが大好きなんだよね」
「それはそうなんですが、もう藍と約束しちゃったんで」
ニコニコ笑う清十郎に見つめられる。奴は俺と藍を交互に見つめ、ポンと手を叩いた。
「そうか。君たち付き合ってるの?」
単刀直入に聞いて来やがった。ここは正直に答えておくべきか。ゲイの清十郎でも付き合ってる彼女がいる男には近寄らないだろう。
「ええ。昨日からですけど」
「なるほど。緋色君、羨ましいぞ」
清十郎は俺の両手をがっしりと掴む。
俺の目をしっかりと見つめてだ。
これはキモイぞ。
そしてパチリを右目を閉じてウィンクした。これは怖い。背筋にゾクリと冷たい感触を味わうのだが、清十郎は俺の手を放して手を振る。
「じゃあね。藤次郎も二人の邪魔をしたらいけないよ」
満面の笑顔を振りまきながら、清十郎が店から出て行った。ホッと一息ついた。やはり、ガチのゲイに最接近されるのは緊張する。
藍の方を見ると、藤次郎と一緒にレジに並んでいた。楽しそうに会話している二人を見ると、やはり何か面白くない気分になる。その時、俺のスマホが鳴った。結構大きな着信音が鳴るように設定してあるので、焦って電話に出た。
「はーい。弟君。君、表情が暗いよ。まさか、嫉妬してるのお?」
電話をかけてきたのは彩花様だった。
「あー。それはその……」
「いいじゃんいいじゃん。彼女が他のイケメンと喋ってるのを見つめるのは面白くない。それ、健全な恋愛感情だぞ」
「そうなんですか?」
「ああそうだ。私なんかな。弟君が藍ちゃんとイチャイチャしてるのを見て、そりゃもう激しい嫉妬心が沸き上がってだな。もうこの小さな胸は嫉妬の炎で焼き尽くされてしまいそうだ」
「え? そうなんですか?」
「嘘だ。信じるな」
嘘だった。彩花様が嫉妬するという話を聞き、自分もモテモテなのかもしれないという得体のしれない高揚感を味わってしまったのだが、即刻霧散した。当然だ。自分は今までモテた事なんかない。
「ははは。ところで弟君。録音はしているかね」
「はい。大丈夫だと思います」
俺はポロシャツの胸の部分を触り、首からぶら下げたICレコーダーがある事を確認した。
「よろしい。では今後の行動を指示する。これから三人で昼食を取り、そのまま藤次郎の部屋へ直行するんだ。そこで今から購入するスプラX3をプレイしろ」
「え? さっき藍の部屋でゲームするって言っちゃったんですけど?」
「大丈夫。藍ちゃんも藤次郎もスプラX3に夢中だ」
うむ。レジ前を見てみると、藍と藤次郎が意気投合してるのがよくわかる。やはり面白くない。
「何だ? 面白くないのか?」
「あ……そういう訳では……」
「みなまで言うな。もし弟君が傷ついてしまったなら、その時は私が慰めてやろう」
「え? 嘘でしょ?」
「今度は本気だ。ま、私の小さな胸で良ければの話になるがな。堪能させてやるぞ」
「彩花! 何言ってるのよ。藍ちゃんの胸の代わりなら私が最適です」
「ちょっと待ってよ。緋色は私のAカップが大好きなの。だから癒してあげるのは私の役目です」
姐御三人衆が喧嘩を始めたようだ。しかも、店のすぐ外でもあり人が集まってきた。一体なにやってんだ?
「緋色。買ったよ。これからどうする?」
藍に背後から声をかけられた。
「あれ? 先輩たちどうしたの?」
「うーん。昼ごはんに何を食べるかで揉めてるみたいだな」
嘘も方便だ。姐御三人衆の諍いの理由など話せるわけがないじゃないか。
「私たちはどうする?」
「俺としては、ファミリーレストランで少しリッチな食事したいんだけど」
「あの、藤次郎君も一緒でいいかな?」
「いいよ」
本来ならばデート中だからと断るべきなのだろうが、彩花様からの指示がある。今から藤次郎の部屋へと乗り込んで買ったばかりのスプラX3をプレイしなければいけない。
俺と藍は会計を済ませた藤次郎と共に、一階のファミリーレストランへと向かったのだ。
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