第19話 電子の海の索敵行動

 彩花様は俺の赤いノートパソコンをカチャカチャといじくりまわしているし、他のメンバーもスマホを片手に一生懸命に検索作業をしていた。俺も例の江向吹雪のアカウント、F6Fとつながりのあるアカウントやその投稿を追っていた。そんな折、藍が報告を始めた。


「彩花様。F6Fヘルキャットの主要な取り巻きアカウントはこれですね。〝ルフトヴァッフェ〟と〝チャック・イエーガー〟、〝RRグリフォン〟の三つで間違いなさそうです」

「そうね。相互フォローだし返信している頻度も高いし、何よりもこれよ。ラディカルフェミニスト的な過激発言が凄いの」

「なるほど。しかも、全員航空関係のHNを使ってるしな。取り巻きに間違いないだろう」


 椿さんの指摘に彩花様が頷いている。しかし、航空関係とは何の事だろうか。


「弟君。これを見てみろ」


 彩花様がPCのモニターを指さす。俺は頷きながら、F6Fとルフトヴァッフェ、チャック・イエーガー、RRグリフォンの書き込みを覗いてみた。ところでF6Fは昔の米軍機らしいけど、後の三つは何かの暗号なのか。さっぱり知らない単語だ。


『これは柊彩花一派だな』

『椿と玲香と、あと一人は誰だ?』

『このデブは一年だよ。たしか宮野坂って名前だ。学園一の爆乳って噂』

『椿よりデカいのか』

『デブな土台の分だけ数値は上のはず。こいつは1メートル越えの逸材らしいぞ』

『真ん中のオスガキは?』

『椿の幼馴染で赤色とか言う奴だ。最近、玲香の親が結婚して弟ができたって話があっただろ? その弟だよ』

『なるほどなるほど』

『変態玲香の弟は当然変態だったと』

『変態姉弟は仲がいい』

『そりゃそうと、この画像が使えねえかなあ』

『使えない事はないが、効果は薄いだろう』

『これ、セクハラだよな』

『まあそうだが、逆セクハラだから』

『変態弟が変態姉の貧乳を揉んでる画像とか?』

『そういうのがあればいいんだが』

『無けりゃコラで?』

『バレるから意味ない』

『じゃあどうする?』

『ハメるのがいいだろうな』

『ハメるって? 誰ハメるの?』

『やっぱり胸で釣る?』

『椿の巨乳に慣れているクソオスだから、お前の胸じゃ無理だろ』

『ひでえな。これでもFなんだぞ』

『ま、他の方法を考えてる』

『何なに? どんなハメ方すんの?』

『ここじゃ無理。詳細はレインで』

『こんな弱小サブ垢、誰も見てねえよ』

『バレたらお終いだからな。注意しろ』

『わかった』


 突然、投稿が止まった。


「ほほう。レインの方へ移動したぞ。では、私たちも行くか」


 行くって? レインのグループを覗くの?

 彩花様、それは流石に無理でしょ。


 と思ったのもつかの間、玲香さまはPCを操作して誰かのスマホ画面を表示した。まさかこれはハッキング?


「これは江向吹雪の手下二号である越ケ浜佳澄こしがはまかすみのスマホだ。ほら、レインを開いた。秘密のグループにインしたぞ」


 えええ?

 彩花様、これ、ハッキングとかいうヤツなのでは?


 どうしてこんな事が出来るのかわからない。でも、これであちら側の秘密は筒抜けになっているのは間違いない。


 その時の俺は、誇らしげな彩花様の横顔を羨望の眼差しで見つめていたと思う。



※おまけの用語解説

【F6Fヘルキャット】

 米海軍の艦上戦闘機。大出力エンジンと優れた旋回性能、頑丈な機体で日本機を圧倒した。愛称はヘルキャットだが、これはスラングで「性悪女」の意味。

【ルフトヴァッフェ(Luftwaffe)】

 旧ドイツ空軍の事。1935年から1945年まで設置されたドイツ国防軍の空軍。

【チャック・イエーガー(チャールズ・エルウッド・イェーガー Charles Elwood Yeager)】

 アメリカ陸軍及びアメリカ空軍の軍人。退役時の階級は空軍准将。世界で初めて有人飛行で音速を突破した人物として有名。実験機ベルX1(ロケット機)での記録である。

【RR(ロールスロイス)グリフォン】

 英国のロールス・ロイスが開発した2000馬力級航空機用レシプロエンジン。V型12気筒で36700ccだった。元々爆撃機用として開発されたエンジンだったが戦闘機用としても使用された。


 どうも学園フェミ協会の代表、江向吹雪嬢が航空機系ミリオタのようです。そして前話で色々飛び出て来たフェミ用語についても一言解説しておきます。


【オス】

 基本的に男性差別用語。「オスガキ」は主に男児を指すが青年にも使用される。「クソオス」も同じく男性への暴言。「ジャッポス」は日本人に対する差別用語のジャップとオスを組み合わせて短縮したもの。フェミニズム先進国の海外事例を引用する「出羽守」が好みそうな言葉。

【ちんよし】

 お〇ん〇ん(男性)+よしよしの短縮形。男性に媚びる女性、もしくは媚びる行為を指す。性行為に限定されている訳ではなく、日常における女性から男性に対する配慮なども該当する。

【性的消費】

 近年フェミニストが使用している謎の用語。本来は性的客体化、即ち女性の性を商品化した経済活動に対する批判的用語だと思われるのだが、フェミニスト以外は理解できない。最近では「宇崎ちゃん」の献血ポスターや「温泉むすめの」イラスト、「月曜日のたわわ」の新聞広告など多数の萌え絵が「性的消費」であると批判された。

【性的二次加害】

 本来は性的被害者を批判する事。つまり、「露出の多い服を着るから痴漢被害に遭ったのだ」とか、「一人で出歩くからレイプされたんだ」などの被害女性への批判を指す。しかし、フェミニズム的論理では公共の場、もしくはそれに準ずる場で萌え絵を目撃する事で発生するらしい。つまり、「温泉街で温泉むすめのポスターを見た事で自分は傷ついた。二次加害だ」みたいな論法。ソープランドなどの性風俗や本番行為のあるAVが存在している事が二次加害であるという極論も存在する。

【飯炊きオ〇ホ】

 男性に従順な既婚女性に対する差別用語。

【24】

 英語で2(two)4(four)よりツーフォー……通報の意。

【名誉男性】

 男性の味方をする女性、反フェミニストの女性に対する差別用語。かつて、アパルトヘイトが実施されていた南アフリカにおいて、白人の味方をする黒人を名誉白人と呼んだ事から。

【性犯罪と地続き】

 現に温泉むすめのイラストや設定が性犯罪と地続きであると指摘するフェミニストが存在する。当初、温泉むすめの設定にあった「夜這い」や「スカートめくり」に対する苦言であった。温泉むすめ(女神)の悪戯的な設定だがこれはまあギリキリ理解できる。しかし、エロい表現(とフェミニストが認定したがたいしてエロくない表現)が痴漢や覗き行為などの行為を助長すると言われ始め、多くの一般人が困惑している。

【インセル】

 〝involuntary celibate〟から作られた造語。〝不本意な禁欲主義者〟などと訳される。恋愛したいのにできない非モテ男子が、その原因を女性に求める女性蔑視主義者の事。彼らは独善で暴力的な傾向があり、何件もの無差別殺人や自爆テロを起こしている。作中では、このインセルの過度な女性蔑視は、ラディカルフェミニストの男性蔑視と共通しているのではないかと指摘されている。

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