第18話 罵倒の嵐とファンネルの使い方
『このオスガキが発狂してる。無理やりな決めポーズがざーとらしい』
『あーあ。生の〝ちんよし〟激写だよね。キモッ!』
『この巨乳がもう性的消費以外の何物でもないわ。そんなものクソオスにこすり付けるな』
『性的二次加害だわ。怒りしか湧いてこない』
『こんな女が将来飯炊きオ〇ホになるのさ』
『氏ね。ジャッポスなんか全員氏ね』
『24案件だな。これは女性の見たくない権利を侵害してる』
『不純異性交遊ってやつ?』
『乳で男の気を引く名誉男性はこの人達の事ですか?』
『この♂勃起してるんじゃね? でも全然目立たねえな。この粗チンが』
『租チンなら去勢したらいいのに。そうすりゃ無害だわ』
『これ見て性的加害する馬鹿が続出するんじゃね? 害悪以外の何物でもないわ』
『こういうのが性犯罪と地続きなんだよ』
うむ。
なるほど。
これがヤバい連中のRTに添えられたコメントだ。
確かに罵詈雑言のオンパレードのようなのだが、俺の知らない単語があって読解不能なものも多い。
「凄まじいだろ? 引用RTだけなら把握できるが、スクショ撮ってそれを拡散する方法なら実数は捉えようがない」
彩花様はため息をつく。画像を添付するだけなら追跡は実質不可能になるのか。
「そういうの、どうするんですか?」
「どうしようもない」
「悪口を放置するんですか?」
「まあ見てな。そろそろ私のファンネルが攻撃を開始するぞ」
「ファンネル?」
「うむ。これは宇宙世紀に開発されたオールレンジ攻撃を担う遠隔操作式のビーム砲だよ」
「え? 宇宙世紀?」
さっぱりわからない。
これは困った。
「何だ。何も知らないって顔をしているな。一から説明するぞ。まずはガンダムシリーズ二作目の『機動戦士Zガンダム』に登場する
「はい」
とりあえず返事をしてみた。もちろん、何も理解していない。
「このファンネル、エルメスの場合はビットだが、要するにこの遠隔操作式のビーム砲を相手の周囲に配置する事により、十字砲火、つまり、全方向からのオールレンジ攻撃を可能にするんだよ」
「そのビーム砲は幾つあるんですか?」
「設定上は10基だな。それをサイコミュ、即ち、ニュータイプ専用の遠隔操作機器で操るわけだ。相対している者にとっては、思ってもない方向から複数の攻撃を同時に受けるため、主人公補正がかかっているキャラでないと勝てない仕様だな。ま、ボスキャラだよ」
なるほど。
よくわかってはいないが、前後左右に上下と斜め方向あちらこちらから一斉に攻撃されるわけだ。
「想定外の方向からバンバン撃たれるわけですね」
「そう、その通り。それをネット上に当てはめるなら、議論している相手ではなく、その取り巻き、思ってもみない相手から一斉に批判されたりするわけさ。一対一で議論しているつもりなのに、まさかの全方位からのオールレンジ攻撃を受けてしまう。一対一で対等のつもりが四面楚歌になっているんだな。まあ、ここまで極端な例も珍しいが、一人が誰かの意見を批判した時に同意見の者が複数現れて批判を始める現象を、アニメのオールレンジ攻撃に例えているわけだ。この場合のファンネルとは、有力なアカウントを擁護する取り巻きって意味。わかったかな、弟君」
「わかりました」
そういう事か。ガンダムのあれこれは置いといて、彩花様には親衛隊が多数いるから、その親衛隊が彩花様の擁護に回るって事なんだ。
「これを見ろ」
彩花様がモニターを指さす。
親衛隊らしきアカウントが、先程の暴言に対し一斉に反論を始めたのだ。
『非モテの戯言だなあ。情けない』
『相変わらず意味不明。性的消費って何? 誰が何を消費してるの? お・し・え・て』
『男女仲良しな写真がどうして性犯罪なのさ』
『こっちが24するよ。キティなツイフェミさん』
『まともな議論も出来ねえのかよ。暴言の垂れ流しはみっともないぜ』
『この攻撃性はインセルに匹敵するかもな。もしそうならそっちの方が犯罪と地続きじゃん』
反論はしているが、暴言に対して暴言で返すようなところは見受けられない。
「ふむ。理性的に振舞っているな」
「そうですね。もしかして彩花様が?」
「まあな。私ではなくで親衛隊の隊長である
きたかたかわいつき? 聞いたことがある名だが……はて、誰だっけ?
「駅前にある北片河法律事務所の所長さんだよ。もうすぐ60のイケメン親父。もちろん弁護士な」
そ、そんな人が親衛隊の隊長さんなの? マジなの?
でも、そんな人、自分の親よりも年上の人を呼び捨てなの?
「何? 信じられないって顔をしてるな。これを見ろ」
彩花様はブラウザの別ページを開く。そして表示されたページのタイトルは『彩花ガーディアンズ』だった。
「ほらな。嘘じゃないだろ?」
確かに、ガーディアンズ隊長は北片河樹になっている。
「他にも」
そこには恐ろしい名が連なっているではないか。
地元では大手の建築会社である
「ま、樹が締めてるから馬鹿はいない。もしいたとしても厳しく注意されるしね。本物の弁護士が法的措置を取るよって言えば、脅しだとしてもかなり効く」
そういう事なのか。わざと炎上させるような投稿をしている割に落ち着いている理由がわかった。専門家のバックアップがあるからだ。
「それはさておき、今から本筋を追うぞ」
「え?」
「これは餌。そこへ寄ってくる何か。それを見逃さない事が大切。みんな協力してくれ」
「わかったわ。何をすればいいのかしら」
椿さんが頷きながら質問する。
「このアカウントを追う。〝F6F〟江向吹雪の動向を探るんだ」
すっかり忘れていた。美女に囲まれて呆けていたのは自分だった。
そうだ。彩花様がやろうとしていた事は、学園フェミ協会の行おうとしている校則強化運動の阻止だったんだ。
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