第17話 レモン少年ポーズの反応は?

「おお。早速バズってるぞ。〝いいね〟の勢いが止まらない」


 ああそうですか。そうですか。

 俺は変態さん扱いで、バズって良かったですね。俺だけじゃなくて玲香姉さんや椿さんや藍まで顔出してるのはどうなんだか……。


「どうした緋色? 浮かぬ表情だが」


 俺の表情が暗いのを気遣ってか、彩花様が声をかけて来た。


「いえね。俺の事を変態呼ばわりするのはまあいいとして」

「いいのか?」

「よくはないですけど、その、顔ですよ。俺はともかく、椿さんや玲香姉さんや藍まで顔を晒してるのはどうかと」


 そんな心配をしている俺に突っ込んで来たのは藍だった。


「ああ、それは既に加工済みだから心配ないよ。ほら、猫耳と鼻と口と髭つけてんの。可愛い猫獣人になってるでしょ」


 藍がスマホを見せてくれた。

 確かに俺を含め、写っている全員が猫耳と猫の鼻と口と猫の髭が付け加えられている。これなら素顔はわからない。いつの間にこんな可愛い加工をしてたんだ。彩花様って、何気に凄い人だった。


「ま、わかる人にはわかってるみたいだけどね。投稿者が彩花様先輩だってのもバレてるわけだし」

「そうか」

「でもほら、これ見てよ。意外と好意的なコメントが多いよ。これなんかほら、『レモン少年ポーズの男の子、羨ましい!』だし、『女の子可愛いね。男の子の取り合いで喧嘩はしないで』とかさ」


 確かに言われた通りだ。好意的なコメントが多い。


「まあね。彩花様先輩が緋色に抱きついている写真をうpしたらそりゃ大騒ぎになるだろうけどね」


 それは恐ろしいと思う。何せ、彩花様には数百名の親衛隊がいるのだから。


「さて緋色君。君のノートパソコンをここに持ってきたまえ」

「え? 俺のを使うんですか? 古いんで動作は鈍いですけど」

「構わないよ。さあ、持ってこい」


 俺は急いで二階の自室へと戻り、ノートパソコンを引っ掴んで下へと降りた。そしてリビングのテーブルの上に置いてから思い出した。


 これは……いわゆる痛PCだった。普段は開きっぱなしなので忘れていたのだ。このパソコンは赤い筐体が特徴で、モニターの裏側、要するにノートパソコンの顔の部分には某アニメの敵方陣営のマークが印刷されているのだ。それをいきなり彩花様に指摘されたしまった。


「おお。弟君のパソコンが赤いぞ。凄いな……これは?」

「親父のお下がりなんですよ。去年の誕生日に譲ってもらったんです……」

「これは〝赤い彗星〟仕様だな。ふむ、弟君の御父上もなかなか良い趣味をしていらっしゃる」

「あの、古いアニメ趣味ですよ?」

「それがいいんじゃないか。趣きがあっていい。巨乳趣味の巨乳オタクであるウチのクソ親父は美少女ゲームに熱中している変態なのだが、それでもあのクソ親父は自分のPCを〝青い顔の総統閣下〟仕様にしているのだ。ある意味、弟君の御父上と同じ趣味だといっていい」


 〝赤い彗星〟の知識はある。某ロボットアニメの悪役キャラなのだが、主人公よりも人気があるのではないかと言われているらしい。しかし、〝青い顔の総統閣下〟とは何者なのか。


「ん? どうしたんだ。弟君は総統閣下の事を知らないのか?」

「残念ながら、知りません」

「なるほど。〝青い顔〟と〝総統〟と言えばあの人しかいないのだが」

「あの人って?」

「某宇宙戦艦アニメに登場する悪役だ。シリーズ途中で主人公側と共闘する軟弱なところもあるのだが、まあ〝赤い彗星〟と並んでアニメ界の大人気二大悪役といえる存在だ。主人公を食ってしまうほどの存在感を放ち、しかも多くのファンから愛され続けている悪役中の悪役と言えるだろう」


 アニメ界の二大悪役(注)とか、どんな悪役なのだろうか。自分はその作品を見ていないので何とも言えないのだが、そもそも主人公より愛される悪役が存在しているというのが信じられない。


「そうだね。赤い彗星も青い顔の総統閣下もかっこいいよね」

「情に流されない芯の強さがいい」

「でも、時折見せる女性への愛情がね、凄くいいよね」

「うんうん」


 みなさんご存知なようです。知らないのは自分だけだった。


「それはそうと、本題に入ろう。弟君、PCを起動したまえ」

「わかりました」


 彩花様に促され、電源コードをPCと繋いで電源スイッチを押す。そしてウィンドウズが立ち上がる。


 壁紙には赤というか朱色の、頭がないロボットが描かれている。


「これはいい趣味だ。流石は弟君の御父上だな。借りるぞ」


 有無を言わさずマウスを掴んだ彩花様がPCの操作を始めた。


「おお、クロームは入ってるな。メモ帳も開くぞ。よし、Tubyiterツブヤイターにログインっと」


 彩花様はブラウザを開いてツブヤイターのサイトへとアクセスする。そして、自分のアカウントにログインした。


「おお。弟君は人気者だぞ」

「そうですか?」

「もちろんだ。ま、私の投稿に悪口を書く奴は稀だから」


 そりゃそうだ。生徒会長であり何百人も親衛隊が揃っている彩花様に面と向かって盾突く奴などいないだろう。


「取り敢えず見るべきはこれ。引用のRTリ・ツブヤキだ」


 引用RT。すなわち、とある投稿に対してそれを引用し、自分の投稿に取り込む機能だ。彩花様が該当部分をクリックすると引用RTの一覧が表示された。


 そこは男性に対する嫌悪と否定と暴言が連なる地獄だった。


(注)もちろん、作者個人の判定となりますが、これに関しては異論は少ないと思っています。

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