第16話 女子会が始まる時

 放課後である。俺は藍と玲香姉さんと三人でスーパーに立ち寄っていた。彩花様と椿さんは生徒会の仕事があるとかで少し遅れるらしい。


「中華系の総菜がいっぱいあるね。この酢豚美味しそう。色々買いたいな。あっちのお寿司はどうかな?」

「やっぱりスーパーの総菜って言ったら揚げ物よね。コロッケとかエビフライとか」

「このオードブルはどうかな。揚げ物がたくさん盛ってあってお買い得感満点ですよ」

「あは。これはいいね。麺類も豊富だよ。うどんにそば、あ、冷やし中華もあるね」

「どれ買いますか。迷いますね」

「気にしないで欲しい物は全部買っちゃおう」

「いいんですか?」

「大丈夫よ。お金は気にしなくていいから。荷物は緋色が持ってくれるし。彼、力持ちで頼もしいの」

「確かにそうですね。緋色は頼りがいがあります」


 めいっぱい褒められているのだが、これは荷物持ちとして重宝するということだ。それ以外に意味はない。

 結局、何やかやで十人分はあろうかという寿司やオードブルを買い込んだ。もちろん、その大荷物を持たされたのは俺だ。スーパーが約800メートルという近所にあった事は幸いで、これが数キロの距離だったら流石に泣いていただろう。


 その後、藍は自宅に戻ってから我が家にやってきたし、少し遅れて彩花様も到着した。そして向いの佳乃家からは、椿さんと夏美と翠ちゃんの三姉妹に母親の紀子おばさんまでくっ付いて来ていた。


「こんなに買って来たの? 色々作ってあげようかと思ったんだけど、いらないみたいね。今夜は私もご一緒させてもらってもイイかな?」

「いいとも!」

「いいよ!」

「わーい!」


 みんなノリノリである。ちなみに、紀子おばさんは色白で華奢な体形であり、三女の翠ちゃんと非常によく似ている。


 女三人寄れば姦しいとはよく言ったものだ。今夜はその倍の六人と中年の女性一人であるが、まあ賑やかな事この上ない。


 夕食は買ってきたお寿司や中華総菜とエビフライやコロッケなどの洋風総菜のオードブルだったのだが、まあ、年頃の女性はダイエットだの何だのと食が細いものらしいと噂では聞いていた。もちろん、向いの佳乃家ではそんな事はなかったし、玲香姉さんも遠慮せずによく食べる人だった。そして、目の前にいる彩花様も細身の割にはよく食べていたし、藍はまああの体格だから当然のようにパクパクと食べていた。JKのダイエットなんて、俺の周りでは都市伝説だったという事だ。


 賑やかだったリビングルームも、食べ物がほとんど片付き夏美が離脱した事で片付けが始まった。


「明日も朝練あるから、帰って寝るね。ふわああ」


 惜しげもなく大口を開けてあくびしてる。続いて翠ちゃんと紀子おばさんも見たいTVがあるとかで席を立ってしまった。残ったのは、昼休みに生徒会室に集まっていたメンバーだ。姉さんと彩花様と椿さん、そして藍の四人だ。


「じゃあ緋色。先にお風呂入っておいで。私たちは後からゆっくり入るから」

「わかったよ」


 風呂の準備は食事前に済ませておいた。まあ、掃除をしてあとはスイッチを入れるだけで済むから簡単なものだ。


 自分で準備した風呂に真っ先に入る。とはいうものの、後には女性陣が控えているため、俺は頭と体を洗っただけで風呂から上がった。せっかく張った湯を汚したくなかったからだ。

 いつも部屋着として使っている紺色のジャージに着替え、リビングでTVを見ながら待機することにした。もちろん、充電を済ませたスマホも手元に置いてある。


 四人いっぺんに入ったようで、風呂の脱衣場からは嬌声混じりの笑い声が響いている。これが噂の〝キャッキャウフフ〟なんだろうけど、どうやらブラのサイズで盛り上がっているようだ。柄が可愛いとかフリルが可愛いとか、顔を突っ込んでもまだ余裕があるとかこれは盛りすぎじゃないのかとか、何と言うか女同士だから遠慮がないような、明け透けと言った感じである。


 待つ事30分、四人揃って出て来た。

 ええっと? 皆さんパジャマなんですけど?


「今夜はパジャマパーティーだよ!」

「弟君に見て欲しいな」

「ああ、何ていうか、恥ずかしいけど、でも見て欲しいって気持ちもある」

「という事だ。玲香も椿も藍ちゃんも、みんな緋色に見せたいらしいぞ。もちろん私もだ。ちなみに、皆ブラは付けてないからな。接触に気をつけろよ」


 喋った順は玲香姉さん、椿さん、藍、そして彩花様だ。今、ノーブラだと聞こえたような気がするし、接触に気を付けろとはどういう意味だ?


「とりあえず記念撮影をする。カメラマンは私だ。さあそこに並べ」


 この状況で記念撮影だと? 


「そうだな。ここは弟君が中央で決めポーズを取る。そうだな。片膝立ちでレモン少年ポーズをしろ」

「レモン少年? それ、何ですか?」

「知らないのか?」

「はい?」

 

 さっぱりわからない。レモン少年って何なんだ?


「それはね、トックティックのアレだよ」


 藍が説明してくれた。黒人の少年がレモンを食べて非常に酸っぱい顔からやせ我慢して決め顔でポーズするという動画が流行ったのだという。これがレモン少年で、その時の彼のポーズがレモン少年ポーズというらしい。


「やせ我慢して決めポーズってのがウケるんだ。さあ弟君。やれ」


 彩花様に有無を言わさず命令された。

 俺は右ひざをつけて左ひざを立てる。そして、彩花様の指示通りに親指と人差し指をたてて鉄砲のようにし、親指を下側にして額の前に置く。


「どうだ。俺様、格好いいだろ? って顔をするんだ。さあさあ」


 彩花様に急かされる。よくわからないが、俺的には一番しぶいと思える表情をしてみた。


「いいぞ、その調子だ。では諸君、掛かれ!」


 彩花様の号令で、椿さんと玲香姉さんと藍が同時に動いた。俺の右ひじは藍の巨乳を押し、左腕には玲香姉さんがAカップの胸を押し付け、頭の上には椿さんの巨乳が乗っかった。

 柔らかい感触に驚愕しながらも、俺は咄嗟の事だったので固まってしまった。しかし、彩花様はその瞬間の写真を数枚撮影したようだ。

 

「いいねえ。いいねえ。巨乳に迫られても決め顔と決めポーズを崩さない弟君だ。これはいい写真がとれた」

「見せて見せて」

 

 椿さんが俺から離れて彩花様のスマホを覗く。玲香姉さんも藍もそれに続いた。俺は三人の柔らかい感触の余韻に浸りながらその場に座り込んでしまった。


「この変態め……と。これで良し。送信っと」


 え? まさか今の写真、うpしたの?

 で、俺はまた変態扱いですか?

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