第8話 SNS戦争開始

「だからと言って、校則を強化すれば問題が起きないわけじゃない。それにな。女性問題としているようで、行きつく先は男子の権利を縮小し、男子を差別して支配下に置く事だよ」

「それ本当ですか。信じられない」

「首謀者はこの女だ」


 彩花様が画面をクリックするとプロフィール画面が表示された。猫のアイコンだったが、ユーザー名はF6Fとなっていた。高校生、フェミニストの記載はあるが、性別やその他の個人情報はなかった。


「誰ですか? 女性だって事もわかりませんが」

「ユーザー名はF6F、大戦期の米海軍戦闘機だ。愛称はヘルキャット。これを直訳すると地獄の猫になるが、意味するところは〝性悪女〟だろうな。本人も自覚してるって事さ」

「性悪女……つまり意地が悪いって事ですか」

「そう。こいつは、同じ学園の江向えむかい吹雪ふぶき。主張している内容で身バレしてる」


 彩花様がクリックすると、投稿内容の一覧が出て来た。本人と取り巻きの投稿らしい。


「生徒会長だからって生意気」

「ポニーテールで男を誘ってる」

「スカート丈短くしてるのは男の目を引く為よ」

「巨乳の親友とつるんで、男を独占してる」

「学園二大美女だか何だか知らないけど、男に甘すぎる」

「媚び売ってるのが丸わかり。巨乳を揺らして馬鹿じゃないの」

「脚が綺麗だからって、黒ストは目立ちすぎ。止めさせたい」

「わざと男の子にぶつかってさ、赤面してるの見て喜んでる。馬鹿にしか見えない」

「レイプされればいいのに」

「学園に来て欲しくないよ。目障り」

「男を排除すればいい」

「男の性欲こそが害悪なんだ」

「それそれ。それが一番キモイよね」

「ほんと、あの脚とか巨乳でオ〇ニーしてるって思うとキショい」

「デレデレしてさ。あいつら、脳内で妄想セッ〇スしてる」

「そんなのと一緒の空気を吸ってるって思うと吐きそう」


 うーん。これ、かなりの罵詈雑言だけど、要するに彩花様と椿さんに対する嫉妬だ。でも、それだけじゃない部分もある。


「女の嫉妬って見苦しいだろ? でもな、それだけじゃない。ここ、見てみな」

「はい」


 彩花様が指さすところ。さっき俺も気づいたところだ。男性と男性の性欲に対する圧倒的な拒否感だと思った。


「わかるだろ。こいつらは極端な男性嫌悪ミサンドリー集団なんだよ」

「わかるというか、わからないというか。誰でも嫌いな人、苦手な人っていると思うんですよ。それでも普通は、好きな異性っているものじゃないですかね」

「一般的にはそういう人、つまり異性愛者ヘテロセクシャルに属する人が多いと思う。しかし、この場合はアレだな。ゴキブリに嫌悪するようなものではないかと思っている。男が生理的に受け付けられないないのだろう」

「それって直らないんですか?」

「難しいと思うぞ。嫌いなものは嫌い、それは仕方がない事だ。しかし、マイノリティに対して寛容な社会を目指すならば、その嫌悪感に対して少しは耐える事も必要だ」

「あっ!」


 そうだったんだ。俺が同性愛者を気持ち悪いって思った事は悪くない。ただ、それに該当する人を傷つけないよう配慮ればいいんだ。


「だろ? つまり、お互いが寛容でなければ寛容な社会にはならない」


 彩花様はにこりと笑って頷いていた。


「さて、こんな理想を語っていても現実は変えられない。先ずは目先の問題を解決しないとな」

「問題とは?」

「ああ、そうだった。江向えむかい吹雪ふぶきが校則改正をゴリ押ししようと画策しているんだよ。恐らく、来週には動議が提出され、職員会と理事会、生徒会で討論されるだろう。問題は理事会だ」

「?」


 学園の意思決定構造を全く知らない俺には何の事だかわからない。


「理事会はな。あの辰巳たつみ清十郎せいじゅうろうの親父が理事の一人なんだ。そして江向の母親はPTA会長だ。PTAは理事の席を一つ持ってる」


 辰巳清十郎……ついさっき、俺はあの岩顔男に迫られてたんだ。それを思い出して背に悪寒が走る。


「弟君も知っているだろう? 辰巳はガチのゲイで、以前から男女別々のクラス編成を主張してた」

「Gの事はさっき玲香姉さんから聞いたばかりですけど」

「もしかして、弟君も迫られた口?」

「そのようで……」

「ぷぷぷ」


 彩花様がは口を押えて必死に笑いをこらえている。


「図星だったか。スマン」

「いえ」

「問題はだな。辰巳の父は資産家の大金持ちで、大企業の役員を幾つも兼任している地元の顔役だ。もちろん、学園にも投資しているので発言力は大きい。そして、江向の祖父は与党政治家だ。与党だがリベラル系で、LGBTや女性差別にはうるさい人物らしいな。父は有力な県会議員。もちろん与党だ。PTA会長の母親は祖父と夫の権威を笠に着て何事もゴリ押しする嫌味な女性だとよ」


「え? それじゃあ校則強化を訴える側が圧倒的に有利な気がします」

「そうだ。だから、その動議が提出されないようにするんだ」

「え??」

「ふふふ。とりあえず、弟君はこの投稿をしてくれ。私がそれをRTリ・ツブヤキーする」


 彩花様が見せたメモ書きにはこんな事が書いてあった。


『僕は会長のポニーテールが大好きだ。会長のブルマ姿も大好きだ。白いニーソも黒ストも大好きだ。会長の下着は見た事ないけど、きっと水色の縞パンに違いない。高名な絵師さんに会長の萌え絵を描いてもらって、そのポスターを校内に数カ所掲示するんだ。』


 ん?

 俺の一人称は俺であって僕じゃないんだが。


「小さい事は気にするな。さあ書き込め」

「わかりました」

 

 俺はスマホを取り出し、メモ書きの例文をそのまま書きこんだ。


「いいぞ。お、弟君って、ユーザー名も弟君じゃないか」

「すみません。いいの、思いつかなくて」

「構わん構わん。じゃあ私はこれを引用してと……」


 彩花様はPCを操作して書き込んだその文字列を見て俺は愕然とした。


『この変態野郎!』


 彩花様、そりゃないでしょ。

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