第7話 秘めたる彩花様の居室
「その辺に座ってな。着替える」
部屋に入った途端、彩花様は制服を脱ぎ始めた。俺がいるというのに。
焦った玲香姉さんが俺の額を壁に押し付けた。
「緋色。見たいかもしれが、我慢しろよ」
「はい」
「それと、この情報は外に漏らすな。彩花の着替えを覗いた罪で、親衛隊にボコられるぞ」
「はい」
そうだった。彼女には熱心な親衛隊がいる。学園内に数十名。外部も合わせると数百名になるらしい。彩花様を侮辱しようものなら、彼らに包囲され酷い目に遭うという。
さわさわと衣擦れの音がする。あの、彩花様が着替えていると思うと、胸の動悸が収まらない。
「もういいぞ。別に見られても構わなかったんだがな。ま、弟君は椿のような巨乳趣味なんだろ? 私の下着姿に興味はあるのか?」
何て返事をしたらいいんだ。興味があるかないかなら、120パーセントある。俺の本音としては、胸元に限れば一位は玲香姉さんだ。彩花様はその次の二位になり、椿さんは三位になるのだが、これ、言ってもいいのかどうか迷ってしまう。
そっと彩花様の方を向く。
あの、細長い御脚を惜しげもなく晒しているホットパンツにTシャツだ。Tシャツのロゴは何かのアニメ作品だろうか。大きなデザイン文字で『Starship Breakers』と書いてあった。
「ほほう。弟君は私の胸元が好みなのか? さっきから君の視線が刺さりまくっているぞ」
「ごめんなさい」
俺は咄嗟に土下座した。そして頭を下げたまま言い訳を続ける。
「そのTシャツのロゴが気になってしまいました。何かアニメのタイトルでしょうか」
「ほほう。弟君はお目が高いな。このロゴに気づくとは」
「?」
俺の記憶にはないのだが、何かの有名作品なのかもしれない。
「これはな、地味なSF作家原作の地味なアニメ作品のタイトルなんだが、地球を救うために命をかける男たちの物語だ。胸が熱くなるぞ」
そう言って
「まだ見た事ないんですけど、おもしろそうですね」
「よし、では弟君に命ずる。今夜この作品を鑑賞し明日返却しろ。そして、詳細な感想を聞かせるんだ。いいな、約束だぞ」
「はい」
有無を言わさない強い口調だった。しかしこれは、明日もこの部屋に来いと命令されたわけだ。これは、彩花様とお近づきになれる絶好のチャンスである事には違いない。
「いい返事だ。さて、本日私の部屋に弟君を招いたのは理由がある」
「はい……」
前言を撤回したくなった。何か面倒事を言い付けられそうな、嫌な予感しかしない。玲香姉さんはコミック本にかじりついていた。その本の表紙は少女漫画的イケメン男性二人だったのだが、まさか、腐った女子御用達のアレかもしれない。今、玲香姉さんに頼る訳にはいかない。
「ふむ。君は
「はい。こないだアカウントを作りましたけど、投稿はしてませんし、フォロワーもゼロだと思います」
「よろしい。それでは、弟君は今日から私の同志だ」
「同志?」
「そうだ。私とチームを組んで学園に巣食う巨悪と戦う。異論はないな」
「はい?」
「
「はい?」
ツブヤイターとは、世界有数の大金持ちである
俺は、彩花様から有無を言わさない圧力を感じて頷いた。彩花様はPCの電源を入れ、ブラウザを立ち上げる。すぐにツブヤイターの画面が表示された。
「戦う相手はこれだ。今、校則強化活動に邁進している学園フェミ協会」
学園フェミ協会……確か、女性の地位向上とか性差別禁止とかを訴えている組織だと聞いたことがあるのだが、俺はその実態をよく知らない。
「よく見ろ。連中の訴えている事項がこれだ」
①女性のポニーテール、および、うなじを露出させる髪型の禁止。
②靴下は紺のハイソックスのみ。白やその他の色、くるぶしソックスニーソックスは禁止。
③ストッキング禁止。冬季12~2月のみタイツ着用は許可。ただし、肌色のみ。
④下着の色は白のみ。他の色は禁止。
⑤女子体操服のブルマ廃止。
⑥男女交際の禁止。
⑦共学学級の廃止。男女別学とし、男子と女子の教室は完全に区別する。
⑧セクハラの厳罰化。女子を見つめる事もセクハラに該当。
⑨現在、昼休みと放課後に限り許可されているスマートフォンの使用を全面的に禁止。
⑩校内にエロい萌え絵の掲示は禁止。献血ポスターや交通安全のポスターでも、女性を性的に扱っているイラストのものは禁止。
凄まじい内容だと思った。ポニーテール禁止って、それは彩花様の髪型を禁止するって事だ。これは女性の権利を奪う事ではないのだろうか?
俺は戸惑っていたのだが、彩花様そんな俺の様子に満足そうな笑みを浮かべる。
「これは女性の性的な魅力を表現するものを一切排除しようとする考え方だ。髪型や服装だな。それは一見、女子の権利を奪う事だ。しかし、こういう規制を行う事で、女子を性的な被害から守ろうとしている、というのが連中の主張だ」
わかったようなわからないような。
「わが校の校則は比較的緩い。そして自由な校風故か、男女交際も普通にあるしな。おかげで年間数名、女子生徒が妊娠する事件がある」
「妊娠は困りますね」
「確かに困る。生徒会としても、子作りは卒業してからにして欲しいよ」
ふうっとため息をつく彩花様だった。
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