第6話 生徒会長の柊彩花様
「緋色? 顔色が悪いよ。大丈夫?」
「大丈夫です。多分」
そう返事をしてみたはいいが、脳内ではマッチョな男同士が絡み合う図案が再生され続けている。これはちょっとヤバイ状況になっていると思う。
これは不味い。非常に不味い。
ここ最近、世間ではLGBTなどの性的マイノリティに対し寛容になっていると聞いていた。自分もそうあるべきだと思っていたのだが……思っていたのだが……実際に遭遇した際の嫌悪感はどうしようもなかった。
正直な話、俺は男同士の絡みが気持ち悪かったのだ。モンスターエナジーを飲みながら、そんな倫理的な事を考えつつも、脳裏に浮かぶ図案はプロレスラーのような、マッチョな男同士の愛し合う姿だ。このまま俺の脳内はLGBTのGに占領されてしまうのか。これは、俺の人生における最大の危機に違いない。
「ねえ、弟君! 難しい顔して、どうしちゃったの? 今、何を考えてたの。もしかして……私の事?」
甲高いアニメ声だ。声を掛けられて、ハッと気づく。俺は脳内に溢れていたとんでもない映像から現実に引き戻された。目の前にいたのは……生徒会長の
短めのポニーテール。二重だがややつり上がった目元。スリムで引き締まった腰に長い脚。何やら蠱惑的な、小悪魔的な、怪しい笑みを浮かべて俺を見つめている。今、彩花様は俺の事を「弟君」って呼んだ……よな。
「ねえ、ねえ。弟君。黙ってないで何か言ってよ」
ちょっとむくれている。
少し膨らんだ頬が、可愛いじゃないか。
俺は途端に顔が熱くなった。首筋もだ。色白なので、多分、真っ赤になっているはずだ。これは困った。
「はいはい。彩花がそんな、非日常的な喋り方してると誰でも固まるって。違和感しかないよ」
「そうかなあ」
「そうだよ。なっ。緋色」
玲香姉さんが話に加わってくれた。これは助かったと思ったら自分に話を振られた。
「いえ。自分は日頃の彩花様を知らないです。違和感とかの前に、そうして話しかけられるだけで緊張してしまいます」
「弟君、違和感ないって」
「だから、そんな女子高生みたいな話し方が違和感だらけなんだよ。普段通りにしてくれよ」
「ケチだな」
彩花様の声が急に低くなった。ドスが効いているっていうのだろうか。声質の激変に少したじろいでしまう。
「私だって女子高生だ。花も恥じらう18の乙女なんだぞ。少しくらい可愛い喋り方をしたっていいだろ」
「それ、声質詐欺だから。緋色、騙されるなよ」
「えーっと……」
何て答えていいのかさっぱりわからない。
「ふむ。そこで肯定しないのは良いことだ。益々気に入ったぞ、弟君」
「いや、気に入ったって、どういう事ですか?」
「そのまんまだ。私は君の事が気に入った。弟君の話はな、椿から何度も聞かされているんだ」
「え? 椿さんから?」
「そうだ。椿はな、あの豊満な胸で、弟君の全身を丁寧に洗ってあげたいと言っていたぞ」
何て事だ!
椿さんの胸で?
あの、眩しすぎるGカップの胸で?
全身を洗う?
ええ?
それは一緒に入浴するって事?
お互い裸になって?
椿さんと?
それってまさか、R18の美少女ゲームでよくあるアレ?
ええ?
R15ではなくてR18の?
それは流石に不味いんじゃないの?
彩花様はドギマギしている俺の顔を間近で見つめる。距離がメチャクチャ近い。俺はもう、どうにかなってしまいそうな、一気に大爆発でもしそうなくらいの緊張感を味わっていた。
「嘘だ。そんなエロゲ的シチュエーションがあってたまるか」
やっぱり嘘だったのか。少し安心……するわけないだろ。彩花様のご尊顔は俺の鼻先20センチの距離から動かないのだ。
「ま、弟君が望むなら、私がしてあげてもいい。私の胸は、椿よりかなり小さいがな」
おおう!
冗談にもほどがあるというものだ。俺は思わず、手に持っていたモンスターエナジーを落としてしまった。半分くらい残っていたのだが、缶から噴き出した炭酸飲料が彩花様の足元にブシャーっとかかってしまう。
「あらら。もったいないね。私の脚、モンスターエナジーでべっとりだよ。弟君、舐めてみる?」
ブッ!
今度は少し噴き出してしまう。その唾が彩花様の顔に少し飛んでしまった。
「あらら。君ね、私に唾つけたの? もしかしてマーキング?」
「そそそそそんな事はありません。ごめんなさい。すぐに拭きます」
俺は焦ってポケットからハンカチを取り出そうとするのだが、彩花様は右手でそれを制止した。
「いいのいいの。私、今から着替えるから、弟君、部屋に上がりなよ。玲香も一緒に」
え?
まさか?
学園ツートップ美少女の彩花様の部屋に、俺が入っていいの?
これ、とんでもない事だぞ?
どうする、俺?
「店先で固まらない。商売の邪魔だからね。さあ、行くよ」
彩花様に手を引かれ、店の奥から座敷の上へと上がった。そしてそのまま奥の階段を上がり二階へと向かう。これは、入場料が5千円もする何かの秘宝展だろうか。とんでもない事態に、俺は唯々驚愕し、突っ張ったままの手脚を何とか動かすのだった。
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