第4話 新生活の始まり

 俺の生活は激変した。特に食生活の急上昇ぶりは革命そのものだった。


 親父と二人の男所帯から男女四人になったので当然と言えば当然。新しい母さんは料理が大好きで、いつも美味しい手料理を食べさせてくれる。彼女の影響を受けているだろう玲香姉さんも、よく母さんを手伝っている。当然、食生活が豊かになった。というか、毎日手作りの食事にありつけることが、何ともまあ驚嘆する事実であり、幸福感が百倍になった気分だ。食が充実するってのは、人間にとって大事なんだなと痛感した次第だ。


 俺の姉、玲香姉さんは、まあ、スリム系で貧乳の民だったわけだが、これが俺の好みにド・ストライクな美少女だった。そしてあろうことか、幼馴染の美少女である椿さんからは「弟君」と呼ばれ始めたのだ。


 椿さんは色白でグラマーで、バストサイズは恐らく100センチはあるんじゃないかって位の巨乳で、多分、ブラのサイズはG75だと思うんだけど、実際に確認したわけじゃない。

 

 俺は貧乳が好みだが、巨乳が嫌いな訳じゃないし、椿さんのような女性と付き合ってみたいという欲求もある。まあ、普通に綺麗だしな。あの美女から「弟君」って呼ばれてるわけだから、その度に背筋がブルブルと震えるような快感が沸き上がってくる。


 俺はそんな事を考えながら歩いていた。幸福感に溢れてるってやつだ。


 今は下校中だ。自宅から学園までは約2キロメートルある。自転車通学の許可される地区は、通り一本先になっている。

 ほんの数メートルで自転車通学が許可されないという事実に、不幸だ、差別だ、米帝の陰謀だ、ロシアのプロパガンダだと文句を言う学友はいるが、俺はそんな風に考えたことはない。自分には妄想癖があり、登校時に色々考え事をしていると学園に到着するし、下校時も同じだ。だから、自転車なんか乗らない方が安全だし人に迷惑をかけることも無いと思っている。


 いつも通りぼんやり歩いていると、俺の前に立ちふさがる大男が現れた。俺よりも身長は10センチ以上高く、体重も10キロ以上重いはずだ。柔道剣道空手合気道、合わせて12段だと豪語している自称武道家のいがぐり頭を見るとゲンナリする。


「緋色君。お願いがあるんだけど」


 猫なで声で、妙に慣れ慣れしく話しかけてくるこの男の名は辰巳たつみ清十郎せいじゅうろう。俺は最近、この汗臭い自称武道家に付きまとわれていた。


「あのさあ。佳乃さんの家、教えてくれないかな? 君、幼馴染なんだろ?」

「知りたいのなら、ご自身で直接聞いてください。僕の口からは言いたくないです」

「いいじゃないか。教えてくれよ」

「嫌です」

「しょうがないなあ。じゃあさ、今から緋色くんちでゲームしよう。どきメモの新作、買ったんだ。一緒にやろうよ」


 そう言ってちらりとゲームのパッケージを見せる。


 策士だ。俺がその手の美少女ゲームが大好きだとの情報を掴んでいるし、俺がまだそれを買っていない事も知っている。それは、こいつの弟である藤次郎が俺と同じクラスだから仕方がないか。

 清十郎は椿さんと親しくなりたいらしい。目の前にいる汗臭い岩面男が、あの可憐な椿さんと親密な関係になるなんてとても信じられないし、そんな非常事態になって欲しくない。これが俺の正直な気持ちだ。


 どうする。

 この岩顔男をどうやって撒く?


 しばし黙って考えてみたが、いい案が浮かぶはずもない。俺はいわゆる帰宅部で、いつも寄り道などせず家に真っすぐに帰っているからだ。


「緋色君。ゲームしようよ」


 困った。断りたいが、その断り文句が浮かばない。こいつはヤバいぜ。絶体絶命だ、って思ったところで後ろから声を掛けられた。


「おーい。緋色。ちょっとボクに付き合ってよ」


 声の主は玲香姉さんだった。振り返って玲香姉さんを確認したところ、姉さんは怖い顔で岩顔の清十郎をギロリと睨んでいた。

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