第33話 母親
生まなけりゃよかったと泣く 母の背を
昔憎んで、今愛しくて
「あんた、母親なんだからしっかりしなさい。旦那の親には、実家には何も言ってませんと言いなさい。そうすれば可愛がられるから」
ガチャンと電話を切られた。夫の失業中、貯金も底をつき、母にお金を貸して欲しいと電話した時の、冷たい対応だ。やはり母は厳しい人だった。夫の実家にお金を借りなさいと言われ泣きながら、向かう。
母の言う通りだった。夫の親は私がまだ実家に何も言ってませんというと安堵して、すぐにお金を貸してくれた。その後ずっと優しく接して可愛がってくれた。
母は私を十九才で生んだ。嫁姑でも苦労し、私に同じ苦労をさせないように、助言する。あんたに別れる気持ちが少しもないなら親として一言も言わない。夫が失業していたことをずっと知らないふりをしていてくれる。
母の厳しさは離婚を乗り越える助けとなった。
母はとても綺麗好きだ。家事に手を抜かない。夏休みになると、母の作った表があり、何でも妹たちと当番制で家事をした。料理、掃除、編み物、縫い物の時間も予定に組み込まれていた。不器用な私はそんな母が憎たらしい。誉められたくて練習した。
あれから三十年たち、時間が出来て刺繍を始める。いつの間にか人並みに出来るようになっていた。母が家に来るときは緊張する。家中を綺麗にして、美味しい味噌汁を作って迎える。そのお陰でなんとか掃除をする。
今は母の厳しかった背中がいとおしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます