第28話 小屋

  幼子が 繰り返し踏む 靴の下

       子猫の死体 赤のトラウマ


「早く起きて。もう行くよ」

昭和40年代、近くの市場の駐車場にサーカスのテントが張られた。

一ヶ月の間ショーをやる。親に連れて行かれた。

オイルショック前のまだ四才。

空中ブランコのショーやピエロを見られる。

うれしくて着替えた。大きなテント。象。興奮した。

その横に小さな小屋があり、二十人位順番で入る。

どんな動物がいるのか、ワクワクする。

 

朱色の襦袢を着た色の白い女の人が椅子に座っている。

手に何かを持っている。

突然その人は未確認の物を首に巻く。

何だろうか?大人たちの腰の当たりで頭を交互に振る私。

見えない。見たい。

 

農機具小屋

その日は突然雨が降った。

近所の農機具小屋に友達と雨宿りした。

五才頃だ。ここなら風も避けられて、暖かい。

野良猫たちがいつのまにか住み着いている。

猫独特の臭いと雨の臭いが混ざり鼻をつく。生臭い。

私と友達はその臭いの源を探す。

「 何をしているの?」友達が叫ぶ。

二才位の男の子が長靴で何かを踏んでいる。

小屋のすぐ裏の水溜まり。バシャッ、バシャッと。

友達は親を呼んで来るといい、その場を離れた。

ひとりにされた私は恐る恐るその足下を確認した。

子猫だ。黒猫の赤ちゃん。私は一瞬吐き気を覚えた。

頭部以外は踏みつぶされて内臓が出ていた。

踏みつけているその子のそばに、足が震え行けない。 

小さな水溜まりが猫の血でどす黒く赤くなっていく。


見世物小屋

蛇だ。大人の腕の太さ位の蛇だ。

女の人は首に巻いたその蛇をやさしく伸ばし、上から下まで舐めた。

くねくねと動く蛇。吐き気を覚えた。

頭の部分を右手に尻尾の部分を左手に持つ。

今度は右から左に、左から右に舌を出して舐める。

繰り返す。舌が頭の部分まで来たとき、首の部分に噛みついた。

蛇はのたうちまわる。恐怖で動けない。血がポタッと落ちる。

 

赤い。女の人は皆に口の中を見せる。

歯まで赤い。私は怖くて目を手でおおう。

早くここから出たい。声にならない。

食べ出したのか、悲鳴に似た歓声。

親はそれを楽しんでいた。

娯楽の少ない時代とはいっても、子供に見せる神経を疑う。

大人は知っているであろう。見世物小屋で何が行われるかを。


あれから蛇が怖い。黒猫が苦手になる。

そして血の赤はもっと怖い。怖くて怖くてこれをトラウマというのだろうか。

しかし、究極のストレスを感じると落ち着くために

トラウマになっている血を見たくなる。

私の心の闇は深い。

 


  


 

 

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