第19話 言霊

  言霊のゆるるをみれば みなもとの

         肉の腐敗も明らかなるに

 

「体力作り部は3時に校庭に集まるように 」

昼休みの時、放送が入る。

運動部に所属していない児童は、強制的にこの体力作り部に入れられた。

昭和53年、土曜日は半日あった。重たいランドセルを背負って四キロ歩く。

力が何より必要だ。私はせっかちなのか、遅刻が大嫌いだ。

学校も遅刻するくらいなら、休む方がいい。

体力作り部の友達は、のんびりしていた。

「早く行こう!一分遅刻すると、運動場一周しなきゃいけないよ。二分で二週。三分の遅刻で三周罰として走らされるんだよ」

私はクラス中の体力作り部の子達に言う。


「えー。そんなの聞いてない。教えてくれてありがとう」

みんな慌てて校庭に走った。そんなの聞いてない。

当たり前だ。

私は遅刻魔の友達を懲らしめてやりたくて口から出まかせを言ったのだ。

遅刻したものに罰などない。

 

ないはずだった。

しかし、校庭で体育座りをして待つ私達に、

「 遅刻したものには、一分で一周、二分で二周、三分で三周の罰を与える」

先生が大声で言う。

そしてその罰は本当に遅刻したものに与えられた。

みんな口々に、わたしにお礼を言う。偶然でも怖かった。


そんな事も忘れていた平成元年の冬。

いつも嫌みを言うパートのおばさんが苦手で、シフトを被らないようにしていた。次の日は一緒だ。最悪だ。

「事故にでも遭って明日休みますように」

独り言のつもりだった。のに本当に事故り肋骨を折り入院してしまう。

偶然だろうと自分にいいきかせる。


翌年、女友達四人で伊豆旅行。

彼氏と別れたばかりの私にとって気分転換の旅行だ。

旅行前夜、髪の毛を洗っていると、一瞬ダンプカーにぶつけられる映像が頭に現れはっとした。縁起が悪い。誰にも言わない。

髪の毛を乾かしながらその事を忘れようとした。

「この車彼氏のなんだ。結婚考えてるの」

言わないと決めたのに、昨夜の出来事をその子に伝えた。

他の二人は私を白い目で見る。妬みを抱かせた方が悪い。開き直った。

 

帰り道、高速の料金所でダンプカーに追突される。

みんな怯えた。私が一番怯えた。

 

苛立ち、嫉妬、憎しみから出た言葉は言霊となって力を及ぼすのか。

偶然なのか。いまだに分からない。

言葉が肉体を腐敗させるのか、それとも逆か。

言ってはいけないと頭で分かっていても感情が言葉の刃を作る。

  

今、朝起きてすぐ、ありがとうを十回言う。

脳が混乱して感謝することを探しだす。

体にいい言葉を発している。

 

 

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