第20話 薬親
母の愛 思い巡らし 会いたいと
叫べば 楽になれるを知るに
「お母さん、私の作文が文集にのったよ」
読み終わると母は笑顔で褒めてくれた。
めったに褒められたことのない私は書いたものが活字になれば褒められる。
そう思い込む。そうすれば、母の笑顔が見られる。
「あんたなんか生まなければよかった」
その言葉の呪縛から解かれて、母に必要とされる。母に愛される。
読書感想文を書くときは、あらすじだけを読み丁寧にまとめた。活字になる。
子供の心の成長を妨げる親の事を、毒親と表現するらしい。
私の母もそれなのか。
「私のお父さんは、趣味で短歌を書いてた」
この母の一言で私は、短歌を読み漁る。
ラジオ番組に応募して採用されると、私の短歌が母の耳に届いた。
母に褒められる。母の笑顔が見たい。
母に愛されている実感が欲しい。てっとり早い方法は何だ。
私は、作詞家になろうとした。
圭子の夢は夜ひらく、セーラー服を脱がさないでの二人の作詞家の通信講座を受ける。起承転結と例え、時代を先読みすること、雑音の中書くことに集中する術を学んだ。売れるものを書け。私の目指すものとは違う。商業主義だ。
活字にならない。
童話作家に目をつけた。また通信で学ぶ。
星都ハナスはその時のペンネームだ。
星と話す。30年前のペンネームだ。
妄想癖は役に立ったが、活字にならない。
「あんたなんか生まなければよかった」
この言葉を聞くたびに、リスカし、過食し、薬を飲んでは吐く。
泣きながら吐く。死ねない苦しみは鎖となり私をがんじがらめにする。
もぐらの泪。
毒親。毒のはずなのに私は死ねない。
「あんたなんか生まなければよかった」
この言葉が心の奥をえぐる度、私の魂は叫びとなって言葉を吐き出す。
お母さんの笑顔が見たい。褒められたい。
愛されていると実感したい。その思いが原動力となり短歌や詩を綴る。
書くことで癒されていく心。私の母は毒ではなくて、薬のようだ。
薬親に会いたい。
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