第17話 アイデンティティ
変な人 変わった子だと 言われても
これが私の アイデンティティ
「誰かわさび知らない?」
台所で母の声がする。
心当たりのある私は自分の部屋の机の中を探し、持っていった。
「こんなの何に使ったの?」
母が不思議そうに尋ねる。
小学一年の国語の授業で、チックとタックを読んだ。
夜中に時計から出てきて、おじいさんのお寿司を食べてしまう話。
私は毎晩、枕元に目覚まし時計を置いて、チックとタックの登場を待つ。
夜中12時になる前にどうしても寝てしまう。
時計の前にわさびを置いた。
ヂッグダッグと聞こえるか試したかった。
そのあとも、バターは虎から作られると信じていたし、雨蛙にも話しかけた。「怖がらなくていいよ。出ておいで」
蛙の皮を脱いだらコロボックリが出てくる。そう信じていた。
「あんたは、ほんと変わってる」
母がいつも言う台詞に傷ついていた。
結婚し子供が産まれた。
「成長を記録したいからカメラを貸して」
「 色々な表情するから、楽しみだね」違う。
私は同じ成長でも、頭、胸、腹部、手足と
部分ごとにどう大きくなるのか知りたかった。
産まれてから365日毎日撮りたかった。
表情よりも細胞レベルの成長に関心があったのだ。
毎日長さも測る予定だ。
母はドンびいてカメラを貸してくれず、
「ほんとにあんたは変わってる」と頭をかかえていた。
昭和のオモチャとは比べ物にならないほど、平成のオモチャは多種多様だ。
一才になる子供はキャッキャッと遊んでいる
( 早く寝ないかな?まだかな)
寝ている間に洗濯や買い物、ご飯の仕度をしたかったのではない。
オモチャを独り占めしたかった。
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