第16話 憎しみ

  憎しみは 外に向かえば殺人で

         内に向かえば 自殺となりぬ

 

 バレー部の新人戦が近づいていた。

 レギュラーに選ばれ、遅くまで練習。

 昭和時代のスポコンアニメのように、うさぎ跳、練習中に水は飲まない。

 中学二年の私は、はりきっていた。

「 気合いが足りない! 歯を食いしばれ」

 ビンタがとぶ。耳の奥がキーンとなった。

 ビンタは3回目だったが、いつもと違う。

 何も聞こえない。左耳から何も音がしない。

 不安になりながら、トスをあげる。めまいがした。

 急性中耳炎。その夜、38度の熱が出た。翌日耳だれ。

 父は激怒し、教育委員会の知り合いに電話した。

 私は3ヶ月、耳鼻科に通院することになる。

 体罰は今でこそ問題になるが、当時は運動部なら毎日のように、

 どの部活でも行われていた。

「ビンタされたくらいで教育委員会に電話したバカな親がいる!」


 違う部活の顧問の言葉が、父の耳に入った。

 同じ学校に通う従兄弟が、父に知らせたのだ。


 父は校長室に乗り込んだ。冷静ではない。

「言った奴を出せ」

 ヤクザみないな脅しだったので、校長は授業中にも関わらず、

 その先生を帰宅させた。

 翌日、校長先生、体罰した教師、学級担任が謝罪に来た。

 耳が痛い。

 それよりも新人戦に出られず好きなバレーが出来なかった事が悔しい。

 

 次の年、体罰教師はまた後輩にビンタ。

 鼓膜が破れた。問題となり先生の教育センターに飛ばされた。

 あいつは二度と経験することの出来ない時間を私から奪ったのだ。

 懲りずに次の年も。

 初めて他人に憎しみという感情を抱いた。

 もし神様がいて、3人まで仕返ししていいというなら、

 漏れずにその教師が入る。

 

 いじめ、体罰、虐待。

 思春期の若い子供たちが自殺するニュースを聞くたび、

 殺したい程憎い相手がいたのではないかと考える。

 憎しみを相手に向けないで、自分に向けた結果の死。 

 不憫でならない。

 風邪を引くと、いまだに左耳が痛い。

  

 憎しみを貯めないように、

 私はその事実を忘れることと、相手を許すことにしている。

 


  

 


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