第15話 犬のコロ
農薬を誤り食べて息わずか
子犬の余命 みるは CM中
父は犬やネコをよく拾ってきた。
散歩もご飯をあげるのもやらないのに、
可哀そうだといっては拾ってくる。
命だから責任持てと母に怒られてから、
犬が一匹、猫は三匹までというルールが決まり母の世話が楽になった頃、
犬が死んだ。
案の定、次の日、父は子犬を貰ってきた。
すでに、父はコロと呼んでいる。
昨日まで家族として共に暮らした、犬の死を悲しまないのか、不思議だった。
父は感覚で生きている人だ。
「そのハンバーグ美味しかった?」
母はいつも入れているお弁当のハンバーグが売り切れだったので、
違うのを入れた。感想を聞く。
「マルシンハンバーグの従兄弟みたいな味だ。好きじゃない」
母は困惑した。マルシンハンバーグの兄弟みたいな味なら入れてもいいが、
いとこは駄目だと言う。
母にはその微妙な違いが分からない。
皮肉な事に私には分かった。
兄弟なのか従兄弟みたいな味なのか、私に判断させる。
「これなら、お父さん怒らないよ」
私も父と同じ感覚で生きるタイプだ。
だから常識に欠けるところもある。
「穀物ってどんな漢字だ?」
母の留守に親戚から電話が来たらしく、
バタバタと父が封筒を持って、私の部屋に来る。
「穀物料ってここに書いてくれ」
筆ペンを渡され、辞書を見ながら書く私。法事があるという。
父いわく、穀物料として五千円入れて持っていくらしい。
いつも頼んでいる母が留守だから仕方ない。
「 聞きとれなかった。おくもつかもしれん。
でも昔は米や麦、粟なんかをお供えしたから穀物で合ってると思う」
「たぶんそれでいいと思う」
お金を入れようとした時に、母が帰宅。
私が恥をかくところだったと怒られた。
子犬のコロが行方不明になった。
探してもいなかった。二日して庭にいるのを見つけた。
フラフラしていた。突然、泡をふき、吐いた。
畑に丸い農薬があり、食べてしまったらしい
玄関に段ボール、毛糸のマフラーを入れて寝かし、様子を見る。
「そうなったら病院に連れていっても、手遅れだ。もう一時間ももたない」
父はそんな犬をたくさん見てきたという。
昭和、戦後すぐの生まれだ。 私は悲しくて辛くて、そばについている。
居間で父の笑い声が聞こえる。テレビが面白いのだろう。
CMになると思い出したかのように犬の様子を見に来る。
四回目で死んだ。
栄養失調で死んでいく近所の人達を見てきた世代だ。
父を責めることは出来なかった。
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