第13話 仮払金

  死にかかるモグラに集まる カラス達

      弔うためか 否 食べるため

 

小学一年生になると、母はおこづかい帳をつけるように教えてくれた。

百円もらって、駄菓子屋さんに走る。

何を幾らで買ったか事細かに記入する。

「ラムネが五円、アメが十円。残金八十五円」

計算も必死だったが、駄菓子屋さんで楽しい時間の中、

何を買ったか忘れることもあった。 

「一円でも合わなければ、遊んではダメ」

一円を笑うものは一円に泣く。をたたきこまれた。


五年生になると、五千円(お年玉)と印鑑を渡され

一人で通帳を作って来るように命じられた。

自分名義の通帳だ。嬉しかった。

徹底的にお金を管理するように教えられた。

 

今でも一円でも家計簿が合わないと眠れない残念な性格になっている。

私の頭に雑費という勘定科目はない。


そろばん、簿記の資格を取って、ある企業の経理事務として就職した。

 

一年たった頃、出納に配属がかわり、

毎日二千万円以上のお金を扱うようになった。

一円でも合わなければ残業になる。

緊張するが全く苦痛ではない仕事だった。

 

「二百万円、仮払金で出してくれるか」

「分かりました」

経理部長とのやり取りが何回かあった。

決算が近づいた。

仮払金の使途は何だろうか気になる。昼休み部長に聞いてみた。

 

「仕事をよくやってくれているから、今夜ご馳走するよ」 

労ってくれることに感謝して、付いていく。

焼き鳥やのカウンターで隣に座る。

 

「毎月、いくらあれば生活が楽なの?」

「二十万円くらいですね」

給料が上がることを期待して、笑顔の私。


「あなたの口座に毎月振り込んでもいいよ」

部長の真意が分からなかった。

 

焼鳥三本目を食べ終わる頃気がついた。

出納の上司もグルだった。生きた心地がしない。

私に追い討ちをかける。これ以上首を突っ込むと痛い目にあうよ。

無言の圧力を感じた。


カラス達と共に手錠をかけられるのはごめんだ。

もはや私にとってお金は神聖なもの。

私の頭に雑費などない。

 

私は退職届を書き、部長の机に叩きつけた。

 

  

  

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