第11話 忠実の月

  感嘆の声あげ花火見る背には

        毎夜 美し忠実の月


「印鑑証明取ってきてくれるか。お釣りはくれてやる」

一年に一度、いや短いと半年に一度、父のこの発言を聞く。

車を乗り換えるためだ。

スカイライン マークII、セドリック 

父の乗り換えで車の名前を幼い頃から覚えた。

ほとんどが白のセダン。たまに冒険してキャンピングカーやジープがあった。

 

高校を卒業するとまだ免許を取れてもないのに私用の軽自動車がある。

練習用だと別の車もある。支払いは全て私だ。

少ない給料の半分以上が車の支払いと維持費でなくなる。

貯金も出来なかった。

 

父は年と同じ数程の車を代えていた。

乗っていた車を下取りに出して、追金して代える。

モデルチェンジしたと言っては乗り換える。

 

ある日、私の車が代わっていた。

父は自分の車をかえるだけでは飽き足らず、

私のものまで手を出すようになった。


父、五十三台目、私四台目。

とうとう母の我慢も限界だ。

「今までの手数料だけで家が建つ」

母は溜め息交じりに怒りを表す。


父は祭りや花火、派手なものが好きだ。

派手な人には、母にはあげないようなアクセサリーなどをプレゼントしていた。

「お母さんを代えられんで車を代えてるんだ 」

言い訳をしていた。


私は夫の言いなりになるような結婚生活をしたくない。

父に逆らえない自分を情けなくそれでいて、生ぬるく感じていた。

父の束縛から逃げるために家を出る。

結婚相手まで決められそうだったからだ。

母はそんな父に逆らえず、仕えている。

もしかしたら母の世代の大半がそうかもしれない。

団塊の世代。専業主婦、良妻賢母。

私はそんな母の生き方が嫌いだった。


世の中の夫たちは、たまに行くスナックのママに鼻の下を伸ばす。

派手な花火にだ。

三日月、半月、満月と形はかわり地味かもしれないが、

夫を忠実に照らす。私も嫌悪していた母のような生き方をしている。

  


  

 

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