第9話 カラスの眼
弱りたる もぐらを狙うカラスの眼
地上に出れば 命危うし
「キジモ鳴かずば撃たれまい 」
日本昔話の小豆まんまの手鞠唄に泣いた。
「中を絶対に見るなよ」
ゴルフをしない父が、ゴルフバックを玄関に運んでいる。
旅行に行く間、隣の家から頼まれて預かったという。
8才の私は、3才年上のその隣の家の子と仲良しでよく遊んだ。
その子も旅行に行かないことが不思議だったが、
学校があるからだろうと納得していた。
その子のお父さんだけが、定期的に旅行に行った。
その度に同じゴルフバックが家にある。
父が母に話しているのを聞いた。
「日本刀もある」会話の最初の方は聞いていなかった。
ある日、下校していたら、隣のおじさんが車で家まで送ってくれるという。
もちろん、自分の子がいるからだろう。
私は、ランドセルをしょったまま車の後部座席に乗る。
途中、喫茶店のような所に寄った。
昼間3時頃なのに、頭をカーラーで巻いたまだネグリジェ姿の
女の人がカウンターでバナナジュースを作ってくれた。
「お嬢さん、隣の家おじさんいるかな」
家に入る寸前、男の人に声をかけられる。
「いないよ」見に行ったふりをして嘘をつく。
隣の家おじさんはカラスだからだ。
いつも眼光鋭く、父と私を監視している。
話せば裏切りだと殺られるかもしれない。
父の命が危険だ。子供心に毎日、生きた心地がしなかった。
隣の家のおじさんはヤクザだった。
旅行の行き先は刑務所。
連れていかれたのは喫茶店ではなく、スナック兼事務所。
「私の家にすごいものがあるよ。日本刀」
友達に自慢していたのを、聞かれたらしい。
覆面刑事に嘘をつくことも平気だった。
父のまわりには、危険なカラスばかりだ。
そのせいで、世の中の善と悪の基準が全く分からない子供時代を過ごした。
キジも鳴かずば撃たれまい。
親が悪いことに荷担していても、私は手鞠唄など絶対に唄わない。
地上に出られないモグラだった。
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