第8話 勤勉な蟻
「何のため生きているの?」
と蟻に問う 怠惰な我は虫にも劣る
幼い頃、蟻の行列を見るのが好きだった。
おつかいありさんという歌の、ごっつんこというのは、
蟻が仲間と会話していると思って聞いていた。
エサのありかを教えているに違いない。
耳をすました。 聞こえない。
アリの行列を追って、巣にたどり着く。
穴の周りに角砂糖をおいてあげた。
アリ達が楽にエサを運べるようにだ。
不思議な事に角砂糖はそのままだった。
遠くの方から一生懸命運ぶ。勤勉な蟻達。
同棲していた男は、ヒモのような人だった。
キリギリスはバイオリンをひく。
その人はギャンブルに明け暮れていた。
私は、アリのように勤勉にエサを運ぶ。
それでも幸せだった。
同棲を解消し好きな仕事を頑張ろうとした矢先、
オーナーの都合で閉店。突然の失業。
引きこもりになった。毎日、テレビゲームに明け暮れた。
「何のために生きているのか」
楽爪苦髪。長く伸びた爪を切る。
畳の部屋にとばしながら、自問自答する。
「何のために生きているのか」
昼寝から覚めても、答えなどない。
ふと見ると、蟻が爪を運んでいる。
怠惰者の汚物を一生懸命に運んでいる。
情けなくて泪がこぼれた。
「お前も、働け。生きていけ」
耳をすましていないのに、キリギリスより劣るのに、
アリの励ます声が聞こえた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます