魔法使いへの夢を絶たれたヒロインが、帰郷中に出会したバスジャック事件。しかも、その犯人は、ヒロインが密かに憧れていた元魔法使いだった。
魔法使いに対して、魔法少女。そこにどのような違いがあるのだろうか? 魔法使いに手が届かなかったヒロインの葛藤はせつなさが募る。だが、その想いを最後まで捨てずにバスジャック犯と対峙する姿は、凛々しく美しく、そして強いと思った。
魔法が開花しなかった魔法少女は、この事件でどう映るのだろう。その描写が加えられているだけで、救われ、前向きになれると思う。
こんな不思議な魔法少女物語……、がんばろう……と勇気がもらえます。
田舎を出て魔法学校に入学したもののその才能が芽吹くことはなく、結局実家に出戻りすることになった月見里ユリ。しかし帰りのバスの中で彼女はバスジャックに巻き込まれてしまう。しかもユリにはその犯人に見覚えがあって……。
魔法使いの地位向上を訴えるテロ組織や魔法犯罪捜査官など独特の設定を用いて、魔法少女という浮世離れした存在を上手く現実に落とし込んだのが本作の大きな特徴で、主人公であるユリも特別な人間というわけではなく、あくまで挫折した等身大の少女として描かれている。
そんな夢破れた少女と彼女とは別の理由で人生を投げ捨てたバスジャック犯との対話が本作のメイン。全く正反対の道を歩いてきたはずなのに、思わぬ形で交わってしまった二人の人生。この出会いは二人にどのような変化をもたらすのか。
魔法少女という特殊な題材ながらも、過去に何かを諦めたことのある人にはきっと共感できるはずだし、憂鬱な感じに始まりつつも読後感はすっきりとしている爽やかな内容に仕上がっている。
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)