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魔法素質者の多くは、子供の頃に不思議な経験をしている。
その多くは素質者が無意識に魔法を行使した結果だ。誰も触れていないのに物が動いたり、何もないところから不自然な出火があって小火騒ぎになったりと、そういったエピソードは枚挙に暇がない。
そうした現象が重なるうちに当人や周囲の人間が「これは魔法では」と気づく。子供に普通の生活を望む親なら魔法を隠すように言うだろうし、ミーハーな親なら子供に魔法学校への入学を勧めるだろう。
不思議な現象の裏には魔法少女あり、というのはこの業界の常識だ。国や犯罪組織も、全国津々浦々に情報網を張り巡らせている。そういった神秘現象を確認するや否やそれが山深い寒村であれ、本州から遠く離れた離島であれただちにスカウトが赴くという話だ。
彼らは、それらの現象が本当に魔法によって引き起こされたものかどうかということはあまり気にしない。人材不足のいま、魔法素質者が見つかりさえすればきっかけは何でもいいのだ。
ユリが魔法学校に入学するきっかけになったのも、そうした「不思議な」現象にスカウトが目をつけたからだった。
翌日に運動会を控えた夜のことだ。ユリは憂鬱だった。去年の学級対抗リレーで盛大にずっこけ、クラスの順位を落としてしまったことがトラウマになっていたからだ。
明日学校に行きたくないな。
そう思った。
そうだ、校庭に隕石でも落ちればいい。それでグラウンドがめちゃくちゃになっちゃえばいいんだと、『アルマゲドン』を見たばかりのユリは思った。
尾を引いて墜落する火球――
立ち上る粉塵――
グラウンドにできたクレーター――
唖然とする教師たち――
運動会中止のお知らせ――
そんな光景を想像しながら眠りについた。まさか、それが現実のものになるとは思いもせず。
あのときの驚きは忘れられない。ニュースの空撮映像で見た巨大なクレーターはいまでもはっきりと頭に焼き付いている。
田舎の中学校に隕石が落下したという珍報はたちまち全国に伝え広まった。天文マニアや研究チームにまぎれて、魔法使いのスカウトだという背の高いお姉さんがやって来て、ユリに魔法素質者としての才能を見出すのはそのすぐ後のことだった。
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