第12話 ハンマー


中島さん『ハンマー投げがやりたいんだけど』



 

 

 

 

僕の名前は寺野かずお、いたって普通の男子高校生です。

隣の席の中島さんが今日も何やら騒ぎ始めました…



 

 

 

 

中島さん『ハンマー投げをやってみたいの!』

 

寺野くん『ハンマー投げ?オリンピックの競技のやつ?』

 

中島さん『そう!テレビで見たの!あれやってみたい!』

 

寺野くん『う~ん、ウチの高校にハンマーあるのかな…?』

 

中島さん『ハンマーなら持ってきたよ!』

 


 

 

 

 

中島さんはカバンから【金づち】を取り出してニコニコしていました。

 


 

 


 

寺野くん『…嫌な予感はしてたけど…中島さん、これは金づちだよ…』

 

中島さん『え?でもハンマー投げでしょ?』

 

寺野くん『テレビでハンマー投げを見たんでしょ?

     ハンマー投げの選手はこの金づちのハンマーを投げていましたか?』

 

中島さん『そう!そうなんだよ!

     ハンマー投げなのに金づちのハンマーを投げてなかったんだよ!

     なんかモーニングスターみたいなのをくるくる回って投げてたよ!』

 

寺野くん『う~ん、あのね中島さん、ややこしいんだけど、

     ハンマー投げのハンマーはあのモーニングスターみたいな

     鉄球を投げるんだよ…』

 

中島さん『でもこの金づちのハンマーを投げれば

     本当の意味でのハンマー投げになるじゃん!』

 

寺野くん『う~ん…でもそれじゃハンマー投げのルールが…』

 

中島さん『まぁ何を投げるかはともかく、ハンマー投げがやりたいの!

     今からでもハンマー投げの女子オリンピック代表になれるかな?』

 

寺野くん『い、今からじゃ無理だよ!室伏広治の妹さんとかいるじゃん!』

 

中島さん『ムロフシコウジ?』

 

寺野くん『日本で室伏広治っていう金メダルを獲った

     有名なハンマー投げの選手がいるでしょ?見たことない?』

 

中島さん『ムロフシコウジ…野球解説とか広島の監督とかしてた人だっけ?』

 

寺野くん『それはミスター赤ヘル山本浩二だよ』

 

中島さん『違うか、ソフトバンクの監督だっけ?』

 

寺野くん『それは秋山幸二だよ』

 

中島さん『元巨人でメジャーでピッチャーやってた人だっけ?』

 

寺野くん『それは雑草魂・上原浩治!ハンマー投げは室伏広治だよ!

     野球は関係ないの!』

 

中島さん『うむむ…わからん、

     ともかくオリンピック選手は今回は無理そうだけど、

     ハンマー投げを校庭でやってみようよ!』

 

寺野くん『(今回は無理って…いつかは出れると思ってるのが凄いよなぁ…)』

 

中島さん『よし!校庭に行こう!』

 

寺野くん『あ!ちょっとまって!中島さん!』

 

 

 

 

 

 

中島さんは校庭に向かって走り始めました。こうなったら誰にも止められません。

そして校庭に着いた二人はグラウンドに円を書いてハンマー投げを始めました…

 

 

 

 

 

 

中島さん『よぅし!いっちょハンマー投げとやらをやってみようじゃないか!』

 

寺野くん『…や、やっぱりその金づちでハンマー投げをやるの?』

 

中島さん『そうだよ!これぞ本当のハンマー投げだよ!』

 

寺野くん『…もうどうぞ、ご自由に…』

 

中島さん『それじゃ1投目!とりゃあ!』

 


 

 

 

 

中島さんは金づちを普通のフォームで普通にグラウンドに投げました。

金づちは意外と15メートルくらい飛びました。

 


 


 

 

中島さん『お!結構、飛ばせたんじゃない?』

 

寺野くん『う、うん…でもこれじゃ、ただグラウンドに金づち投げてるだけだよ…』

 

中島さん『でも結構とんだよ!私、ハンマー投げの選手になれるかも!』

 

寺野くん『あのねぇ中島さん、

     ハンマー投げの世界記録は80メートル以上なんだよ?

     それに投げるフォームも違うと思うよ?』

 

中島さん『あ!そうか!くるくる回って投げるんだった!よし、もう一回!』

 

寺野くん『あ、しまった、余計なことを…』

 

 

 

 

 

 

中島さんは投げた金づちを拾ってきて元の位置に戻り、

今度は本当のハンマー投げのようにグルグルと回り始めた!

 


 

 

 

 

中島さん『うおおおおおおおおぉぉりゃああああああ‼‼‼‼‼‼』

 

寺野くん『あーあー危ない‼危ない危ない‼』

 

中島さん『おおおおおおおっ、せいっっ‼‼‼‼』

 



 

 

 

中島さんが投げた金づちはグラウンドとは真逆の方向へと飛んでいき

校門の近くの二宮金次郎像に『ガンッ‼』と音を立てて思いっきり当たった。

 

 

 

 

 

 

中島さん『……あ、』

 

寺野くん『あぁ…いわんこっちゃない…』

 

中島さん『に、二宮金次郎に当たったね』

 

寺野くん『うん…壊れてるかもしれないから見に行ってみよう…』

 


 

 

 

 

二人が二宮金次郎像に近づいてみると

中島さんの投げた金づちが見事に二宮金次郎像の頭に刺さっていた。

 


 

 

 

 

中島さん『見てみて!寺野くん!二宮金次郎の頭!』

 

寺野くん『み、見事に二宮金次郎像の頭に金づちが刺さったね…

     でも見つかったらヤバいよ…』

 

中島さん『凄いよ!伝説の剣みたいに私の投げた金づちが

     二宮金次郎の頭に刺さってるよ!』

 

寺野くん『はしゃいでる場合じゃないでしょ!バレないうちに何とかしよう!』

 


 

 

 

 

寺野くんは二宮金次郎像の頭から金づちを引っこ抜きました。

ですが、二宮金次郎像の頭に大きな穴が空いてしまいました。

 

 

 

 

 

 

寺野くん『うわぁ…どうしよう…中島さん、二宮金次郎像の頭に穴が…ってあれ?

     中島さん?中島さんがいない…どこに行ったんだ…?』


 

 

 

 

 

いつの間にか中島さんはハンマー投げをした場所まで戻って

今度は白い線を引くライン引きをグルグルと回して投げようとしていた!


 

 

 

 

 

中島さん『うおおおおおおぉぉぉぉぉ‼‼‼‼‼‼‼』

 

寺野くん『な、何やってるの中島さん‼』

 

中島さん『おおおおおおおおおおおっ‼おりゃ‼』

 


 

 

 

 

中島さんがグルグルと回したライン引きは、また校門の方に飛んで行って

また二宮金次郎像に『ガンッ』と音を立ててぶち当たりました!

当たったライン引きの中身の白い石灰が舞い上がり、

今度は二宮金次郎像が白い粉まみれになってしまいました。


 

 

 

 

 

寺野くん『………えぇ…』

 

中島さん『やばい、また二宮金次郎に当たっちゃった』

 

寺野くん『な、な、な、何してるの中島さん!』

 

中島さん『いやー白い線を引くライン引きのやつって持つところがあるから

     クルクル回って投げたら投げやすいかな~って思って…』

 

寺野くん『なんで投げるの!ライン引きを投げるのもアホだけど

     何でまた二宮金次郎像に当てちゃうの‼』

 

中島さん『えへへ、私コントロールはいいのかもね!』

 

寺野くん『悪いよ!ノーコンだよ‼どーすんの?二宮金次郎の像!』

 

中島さん『私が何とかしておくよ!』

 

寺野くん『ええ…何とかって…』

 

 

 

 

 

 

その後、白い粉まみれになり、頭に穴が空いた二宮金次郎像をどうするのか?

と、慌てている寺野くんだったが、中島さんは『大丈夫、大丈夫』と言って

そのまま家に帰ってしまった…

 

次の日、寺野くんが学校に登校してみると二宮金次郎の像は元通りに直っていた。

中島さんはその後、ハンマー投げの話をすることは一切なかった…

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