日陰
飽きたら直ぐに別れを切り出してくるだろう。
付き合いたての頃はそんなことを思っていた。彼女が言う日付が正しいのならば付き合い出して1ヶ月経たずに遠距離恋愛になった。
そして私は遠距離恋愛になって直ぐ、あの人を好きになったのだ。
最初は彼女に伝えることが出来ずに、とても気に入っている先輩として伝えていた。
しかし徐々に彼女も感づき始め私に対する束縛が激しくなって行った。
どこに行くにもメールや電話をしなくては2桁の着信履歴がつくようになり、酷い時には無言電話や友人にまで連絡を取り私の居場所を突き止めるようになった。
日に日に悪化するストーカー紛いの束縛に私は精神を持っていかれ、執筆どころか仕事にまで影響が出始めていた。
この事をあの人に伝えるべきか、いや、伝えた所で何も変わることは無いし無駄な心配をさせるだけだ。
終わらせよう。
職場に着き仕事が始まるまで時間がある為私は珈琲と携帯を手にお店の外に出た。恐らく今ならまだ彼女は電話に出るだろう。
画面を見つめ勇気をだして通話ボタンを押す。
プルルルル…
プルル-なにー?-
スリーコールなり終わる前に聞こえる相手の声。
相変わらず呑気な声をしている。
-今から仕事?-
「うん もうちょっとしたら仕事」
-珍しいねー 仕事前に電話かけてくれるなんて-
「かけないと鬼のように電話してくるのは誰よ…」
-だって心配なんだもん!-
悪びれる様子もなく何処と無く嬉しそうな声で答える。私はこの声が好きだった。《だった》のだ。今は耳の奥に何かが詰まりそうな騒音に聞こえる。
「あのさ、ちょっといい?」
-どうしたの?-
「…もう、終わりにしよ。疲れちゃった」
-…やだよ? そんな簡単に別れるつもりないからさ。それに別れたらあの女の人のとこに行くんでしょ?-
「…この際だから正直に言うね。最低かもしれないけど付き合い出した最初の頃から私はあの人が好きなんだ。ずっと言えなかったし、誤魔化してたことは謝る。でもそれ以上に貴女の束縛に疲れたんだ。仕事も集中出来ないし、これ以上周りに迷惑かけたくないんだ ちゃんと考えて欲しい」
誰がどう聞いても私が悪い。それは百も承知。今更弁解するつもりもない。
-…1ヶ月考えさせて そして考えて。それでも別れたいって言うならちゃんと考えるから-
思わぬ返事だった。
別れないの一点張りになる事を予想していたが彼女なりに考えてくれると言っているのだ。これは信じるべきだろうか。
「…なるべく早めにして欲しいかな」
-分かった-
静かに電話を切る。
本当に考えてくれるのだろうか。
でも今は彼女のことは考えず、信じるしかない。旅行に行く為にも仕事に集中するのだ。
《影は消えることは無い》
どこかで聞いたのか見たのか頭の中にそんな台詞が流れてきた。
無色と有色 おとうふ @otoufu0644
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