影の影
数日後、2人してCDのシリアルコードからライブを応募し翌週が当落発表だった。
発表メールを受け取って直ぐに彼女に連絡をした。
二人とも同じ会場で当選していたため、どちらが支払いをするかで少し揉めていた。今思えばとても可愛い揉め事だ。
-これって支払った方に届くよね。明日か明後日行ってこようかな-
-それだったら私今日仕事終わり行きますよ-
-あ、今日って選択肢もあるのか、じゃあ私今日早番だから行ってくるね。-
-え、それずるい…私今日遅番…-
-私の勝ちだね〜-
そんなやり取りをしている間も私の頬は緩んでいた。この人は本当に歳上なのかと思うくらい仕草や行動、言動がとても可愛かった。そう感じる度に好きだと実感させられる。
とても明るい太陽のような存在。見ているだけで暖かくなる。
しかし、太陽を見れば見るほど、影もどんどんと大きくなってしまう。
本当に私でいいのだろうか。こんな暗闇しか見えていない私で。
でもその影は彼女には見せたくない。見せるべきじゃない。
今はこの現状を楽しめるようにしなくてはいけない。
スマホを机に置きパソコンに向き合い、指を進める。
彼女と全力で楽しむため、少しでも原稿を進めなくては。
そんな思いと裏腹に思考は旅行に向いてしまっているため話が思い浮かばない。でも進めて少しでも早く終わらせなければ楽しめない。なんとも言えない悪循環。
プレイリストを再編集して作業BGMにしキーボードを打つ。そうすることで少しずつだが進めることが出来た。しかしいつもより進まない原稿に痺れを切らした関係者からのメールが増えてその度に謝る日々になっていた。
彼女と私の職場は同じ施設内にあるため仕事に向かう途中に彼女に会うことが度々ある。そして今日も出入口の近くに彼女が居た。
彼女は私の顔を見るなり、
「顔色悪いよ?大丈夫?ちゃんと寝てる?」
と心配そうに話しかけてくる。
「大丈夫ですよー。ちょっと原稿が終わらないだけで」
苦笑しながら返すと、
「…どうせライブまでに終わらせれる分全部やろうとしてるんでしょ」
同じく創作活動をしている人間はこういう時に確信を付いてくる。
「…バレましたかー」
少し引き攣りそうな笑顔を隠すように顔に手を当てて誤魔化す。
「…」
「いやぁ…締切近いし、ライブを全力で楽しみたいじゃないですか。それにイベント用の小説も書かないと…」
「…今日仕事何時まで?もし早く終われるならご飯食べに行こうよ!」
彼女からご飯のお誘いを貰えるなんて。
ご飯行く時はいつも私が誘って時間を合わせて行くのが定番になっている。
思ってもいないイベントと日々の疲れに少し頭が混乱したが、すぐに自分のシフトを思い出し早めに終われる事を確認する。
「あ…はい…!! 行きます!」
そう言った瞬間、ある問題が頭をよぎった。
「じゃあ終わったらそっち行くねー」
「あ…はい!また後で!」
そう言い残し直ぐに足を進める。
そして彼女の姿が見えなくなると同時に携帯を開く。そこには数件の通知。
私の問題。
それは恋人。
私には付き合って三年の恋人がいる。
相手も同じ女性。片道八時間の遠距離恋愛だ。
そこまでは至って普通の恋愛。でも少し違うのは、私はもうその子のことを愛していないという事。
付き合い出したのもその場のノリだったため、数ヶ月後に言われてはじめて知ったのだ。
そんな関係で気になる人が居ると伝えた上でも彼女は私に本気のようで今でも別れようとはしないのだ。
その存在が、私の心を引き留める。彼女が居なければ、私は心から好きな人へ気兼ねなく想いを寄せれる。
だが少しそこまでして自分の事を思ってくれている存在に甘えている所もあった。
このままではいけない。
そう思いつついつの間にか三年の月日が流れてしまった。
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