無色と有色
おとうふ
色鮮やかな世界で
「一緒にライブに行こう」
彼女は突然そんなことを言い出した。
「…どうしたんですか急に」
口をつけようとしていた珈琲を机に置き、彼女の目を見る。インドア派の彼女から外に出掛けよう、ましてや人が多く音も大きいライブに行こうなんて想像もしていなかった言葉だ。
「前に教えたアーティスト メジャーデビューしたじゃん? 去年は仕事で行けなかったけど今年こそは行こうかなって思って」
私がはじめて教えて貰って好きになったアーティスト 最初は軽い気持ちで聞いてみたら心に刺さりそこからどんどんと夢中になって行った。
「それは行きたいです…でもそれって夜ですよね…ただでさえ遠出になるし夜ってことは泊まりがけになりますよ? 大丈夫ですか?」
すごく嬉しい。けど泊まりはさすがに負担が大きいのでは_。と思い、軽く聞いてみる。
「いいじゃん!ライブ旅行!!行こうよ!!」
いつもより明るく元気な声で反応を示す彼女の様子を見ていると私も楽しくなってくる。彼女は私の世界の全てなのだ。
好きなアーティストも好きなものも彼女が世界を教えてくれたから私は毎日を楽しく生きていける。
彼女に出会う前は廃人の様な毎日を送っていた。
物書きの端くれをしながら本業の仕事をし、暴言の飛び交う家に帰り、自室に篭って締め切りの近い小説を書き続ける。私のたったひとつの傑作をあたかも「この人はこんな作品を沢山書いています」と言わんばかりの広告で出され、小説を書くことの楽しみを失っても尚書かされる日々。
そんな日々の中で出会った彼女は自由に生きていた。
最初は憧れだった。周りとは少し雰囲気の違う彼女。でも浮くことなく個性があり私には無いものを持っていると思った。
少しずつ話をするようになりその想いが確信に変わった。自分は絵を描いている。そう教えてくれた。彼女は創作を楽しんでいた。私には無い楽しさ。
「…もしかして嫌だった?」
はっ、と我に返ると
俯いて黙っていた私の様子を心配そうに見つめる彼女。
憧れ続けた結果、いつの間にか好きになっていた。いや、実際好きなのかは分からないが彼女のために何かをしたい、彼女と一緒にいたい、彼女の見ている世界を見てみたい、そう思うようになっていた。
「あ、いや、そうじゃなくて」
「??」
「…私なんかでいいんですか?他にも、あなたと一緒に行きたい人は沢山いるのに…私みたいな、人間で…」
「何言ってるの?君だから、だよ」
彼女は誇らしそうに語り出した。
「私が人に勧めてはじめて本気で好きになってくれた君だから、一緒に行きたいって思ったんだよ。他の人は私と一緒に居たいだけで私の好きな物を共感してくれようとしない。でも君はちゃんと自分の感性で好きになってその好きを共感させてくれる。だから君と一緒に行きたいんだ。」
彼女の目は真剣で、嘘や同情は一切なく心からの言葉を伝えてきた。
私はその目がとても好きだった。
「…一緒に…連れていってください…!!!」
「よし!じゃあまずはライブを当てるところからだね!」
この旅行をしっかりと心に刻もう。大切な人との大切な時間を。
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