Work3

 通報を受けてパトカー五台。渋滞で動けず、車を放棄して人力で現場到着。

 警察は『ドーマ』に対抗出来ない。交通整理、人員誘導。それが最優先。『ドーマ』から人を守るため。

 彼女から人を守るため・・・

 

 「ミカヅキ、ルート44を抜けました。間もなく現地到着です!」

 新米警官の報告。

 「マズイ。急がないとパニックになるぞ」

 リーダー格の警官が無線で指示を送る。時間との勝負。だが、思うように誘導が出来ない。

 爆音。

 ある意味『ドーマ』より恐い存在。

 道路は車でいっぱい。歩道は人でいっぱい。さすがの彼女も・・・!!

 渋滞で繋がった車の上を、猛スピードで走るバイク。無茶苦茶だが、人に害がないように配慮する余裕を持っている。

 警官の前を風のように通過。リーダー格の警官の前。バイクだけが爆走。どこかの店に突っ込んで停車。

 ライダーの女職人は・・・

 上空から、高級車の屋根をへこまして着地。

 頭を抱える警官達。これで間違いなく苦情の電話殺到だ。

 「おい、お前!!」

 ミカヅキの声が響く。

 一瞬、人の動きが止まって、彼女を確認すると、さらにカオスな状態になった。

 「こんなところに出てきやがって。こっちは男に逃げられて機嫌悪いんだ。瞬殺してやるから、そこ動くな!」

 腰のあたりで何かを掴むような動作。

 だが、あるはずのモノが無い。

 皮ジャンの内ポケット。携帯電話は持っていた。

 「コマイヌ」

 音声認識で電源が入り、ノーコールで繋がる。

 「お前なぁ、職人が道具忘れるなよ」

 「飛んで来れるか?」

 「無茶言うな。無理だ」

 「ヨハンに持ってこさせろ」

 『ドーマ』が動いた。片手を車のボディに。そのまま突き刺さる。軽く持ち上げて、ミカヅキに投げた。

 高級車潰れる。

 ミカヅキは別の車の上。

 「なんとかしろ」

 一旦電話を切る。

 『ドーマ』はミカヅキを敵と認識し、絶命するまで攻撃の手を緩めない。

 無人の車が次々飛んでくる。

 消火栓を破壊されて、水がすごい勢いで吹き出した時、胸元の携帯電話が振動した。

 飛びながら耳にあてる。

 「ボックスの力を借りる。後で礼を言っとけよ」

 にやけるミカヅキ。

 何台目かの車の屋根をへこまし、仁王立ちする。

 「よーし。そろそろ本気出そうかなー」

 足を前後に広げ、腰を落とす。飛んでくる車を避ける姿勢ではない。

 飛んできた。今逃したら避けられない!

 「シムラ!!」

 名を叫ぶ。

 車は鋭利な何かで両断され、また車が潰れた。

 ミカヅキの右手には日本刀。独特の曲線と波紋は、鍛冶職人の誇り。柄の先には、動物を模した彫刻。名は『コマイヌ』。名刀シムラに力を注ぐ魔物。

 「瞬殺だ。コマイヌ、力込めろ!」

 「いきなり命令かよ! 『ドーマ』化した人間の家族への説明が先だろ」

 「時間ない。事後報告だ」

 言葉を待たず、疾走する。

 「人使い、いや魔物使いが荒いヤツだな」

 文句は言うが、ミカヅキとは長い付き合い。

 生身の人間とは思えない、しなやかで素早い動き。距離を一気に詰める。

 「はい、さようなら」

 シムラを下から振り上げる。

 刀身は『ドーマ』を股から両断したが、身体は斬れていない。そのまま、心臓を一突き。両手の感触で、心臓停止を確認。

 「コマイヌ!」

 目に見えない力が体内に注がれる。

 『ドーマ』消滅。

 「再生だ、コマイヌ」

 先程とは違う力。ゆっくり刀身を抜く。

 死体のようにただれた男の肌は、元の姿に変化した。

 「コンプリート!」

 シムラを鞘におさめる。

 「おい、お前!」

 近くの警官を呼ぶ。

 「この男を病院に連れて行け。家族にはあたしから説明しとく」

 返事を待たず、ミカヅキは車の上を元来た方向へ走り去った。

 「もう少し、被害を抑えて仕事できないかなー」

 リーダー格の警官の言葉は彼女に届かない。


 「ボックス!」

 ノーコールで繋がる。

 「お嬢、もう少し・・・」

 「話は後だ。あたしごとレベル4のいるところまで飛ばせ」

 「・・・はぁぁ??!!」

 「早くしないと、結界を破られるぞ」

 「待て待て。無謀過ぎる。人間が耐えられるかどうか。命の保障は出来ん」

 「やってみれば分かる。急げ!」

 ここからレベル4の『ドーマ』まで。確かに人の乗り物では間に合わない。

 だからと言って・・・

 「考えるな。行動しろ!」

 ミカヅキは、人間にしておくには惜しい肉体と能力を持っている。

 「全く・・・分かった。電話は切るな。力を送る」

 「急げよ」

 この行動力。迅速な判断。アイツにそっくりだな。無茶苦茶だが筋が通っている。

 ボックスはミカヅキの祖父の顔を思い浮かべる。

 木箱に彫られた魔物の顔が笑った。

 「ワシを飽きさせない奴。これだから人間は面白い」


 街の境界線。

 『ドーマ』だけを通さない、見えない壁。

 レベル4以上の『ドーマ』は人の姿をしているが、もはや人ではない。

 異界から来た魔物。結界を破壊する力を持っている。

 泥のような身体から境界線に腕が伸びる。

 あと少し。

 異変と共に閃光が走った。

 「このクソ野郎。人間ナメんなよ」

 『ドーマ』の腕がない。

 すぐそこにミカヅキが立っていた。

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