【続・ロシア人の皆さんへ贈る手紙(日本人より愛を込めて)】

 親愛なるロシア人の皆さんへ——

 過日、貴国大統領『プーチン』氏が『北方領土を返さないための新ネタ』を披露していましたのでこれに言及するほかなくなりました。年内の内にはと思っていたのですがようやく今日したためることができました。


 その『新ネタ』とは以下のようなものです。



https://mainichi.jp/articles/20181221/ddm/002/030/065000c(毎日新聞)

>プーチン露大統領は(2018年12月)20日の記者会見で、日本との平和条約と在日米軍の問題について「平和条約を結んだ後にどうなるのかは分からないが、この問題を抜きにして最終的な決定を下すことは非常に難しい」と述べた。


https://www.yomiuri.co.jp/world/20181220-OYT1T50156.html(読売新聞)

>プーチン氏は、沖縄の在日米軍に言及した上で「日本との平和条約締結後、何が起きるかわからない」と指摘し、日本から「答えがなければ重大な決断は難しい」と述べた。



 日本国首相安倍晋三は既に『北方領土に在日米軍基地は置かない』とロシア連邦が期待するであろう〝答え〟を表明していますがロシア側が信用しないだけです。

 とは言っても私はこの首相の発言には大いに問題があったと考え支持はできません。アメリカ軍の基地をどこに置かぬとか、当のアメリカ合衆国を抜きにして、しかもアメリカ人が大いに嫌っているロシアとの間で決めてしまおうとするとは、日本の首相は既に焼きが回っているようです。これは確かに日本の問題です。ただし、ロシアと話し合って決める問題ではない。アメリカと話し合って決める問題です。首相はそこまで考えが廻らなかったのでしょうか。


 ロシア人の皆さんの視点で見れば『しめしめ、これで日米間にもめ事を起こすことができる』ということになるのでしょう。

 確かに日本の首相は軽率ですがそれは貴国大統領『プーチン』氏も同じです。しかも『プーチン』氏の方が先に軽率な発言をしている点において、より悪い、と言えるでしょう。ちなみにこの〝悪い〟は誉め言葉などではなく〝頭が悪い〟という意味になります。


 頭の悪いアメリカ人なら日本国首相安倍晋三の発言に単純に怒り『アメリカを抜きにしてロシアとつまらん妥協をするなよ!』と日本に圧力を加えようとするでしょう。

 だが、もし頭の良いアメリカ人がいたらどうなるでしょう?


 『プーチン』氏に好意的に平たく言うのなら、氏はオホーツク海周辺で軍拡が起こることを非常に懸念している、とこういうことになります。


 頭の良いアメリカ人がいたらこう言うことでしょう。

「我がアメリカ合衆国はオホーツク海を平和の海にしたいと考えている。そこでアメリカもロシアもオホーツク海の島々に軍事基地を建設するのを止めようじゃないか。アメリカ合衆国はオホーツク海の島々には軍事基地を造らないつもりである。ロシア側もアメリカと歩調を合わせ軍縮をしようじゃないか。ついてはそのためにアメリカ・ロシア・日本の三カ国で『オホーツク海軍縮会議』を開こうではないか!」と。

 

 かつてのソビエト連邦の最盛期でさえアメリカ合衆国は北海道に在日米軍基地は置かなかった。日本北方の守りは全て自衛隊の担当でした。アメリカ合衆国には元々日本の北方に軍事基地を置く意思は無いとみるほかない。これを鑑みればロシア連邦に対する押さえは日本人にやらせようとアメリカ合衆国が考えているのは自明です。

 アメリカ合衆国としては日本北方に基地を置かなくても腹は痛まない。ぜんぜん痛くもないのに一方的にロシアに軍縮を要求できる。

 貴国大統領『プーチン』氏はやらずもがなの発言をして、アメリカ合衆国を呼び込んでしまい、介入の機会を与えてしまったのです。

 むろんこの後のオチはこうなります。

 ロシア連邦としては北方領土に置いた基地の除去などするつもりはない。できないと言った方がいいでしょうか? そしてそれをもってロシア連邦を『軍縮提案を蹴ったロシア』『ロシアは平和に対する脅威』としてアメリカ人は大いに喧伝できます。

 かくしてロシア人の皆さんはアメリカ人を正義にするための宣伝材料となり、ロシア人は益々悪者になっていきます。



 アメリカ合衆国は『盗聴』の国です。

 〝エシュロン〟という名で初めてアメリカがそういうことをしていると知った人も多いでしょう。

 卑近なところでは『オリンパス社製の胃カメラ』の事例があります。オリンパス社製の胃カメラに構造上の問題があったとしてオリンパス社が激しく非難されたという案件です。

 この時日本のオリンパス本社からアメリカ支社宛ての社内メールをアメリカ民主党の議員が手に入れ、『これがオリンパスの不正だ!』とオリンパス社を糾弾していました。

 しかしこの人物はどこからどういう手段でオリンパス社の社内メールを手に入れたのでしょうか?

 アメリカの政治家になぜかメールの中身が筒抜けになる。

 アメリカ合衆国がインターネット上のありとあらゆる情報を監視しているのはもはや疑いのないところです。


 宛先を限定したメールでさえその内容が筒抜けになるというのに、このように公開された文章をアメリカ人が拾わないわけがありません。

 仮にアメリカ人に私の言った考えが微塵も思い浮かばなかったとしてもこの文章を拾ってしまえば結果は同じです。


 ロシア人の皆さんは『プーチン』氏の軽率な発言のせいでオホーツク海の島々におけるロシア軍の軍縮をアメリカ合衆国に一方的に要求されるかもしれません。元々アメリカ合衆国には日本の北方に軍事基地を置く意思は無いのですからアメリカ合衆国は何一つ失うことなくロシア連邦の軍事力を削る名目を得るのです。

 それもこれも『北方領土』にこだわりすぎるからです。あなた方ロシア人は返さない理由を語れば語るほど深みにはまっていく。


 『一度手に入れた土地は寸土たりとも渡せない』というロシア人の意思だけは伝わってきました。しかしその未来を考えた場合、そうした考えは捨てた方がロシア人の皆さんのためでしょう。


 北方領土はロシア人にとって呪われた土地です。

 日本人との条約を破り、日本人が降伏の意思を示し両手を上げた後もなお殺し続けた。日本人の恨みの血が隅々まで染みついた地面が北方領土です。持っていれば子々孫々まで祟られることになるでしょう。この土地は一刻も早く手放した方がいい。それがロシア人の皆さんのためです。


 我が国の首相は「まずは二島」などと温いことを言っていますが、国後・択捉・歯舞・色丹の四島を直ちに日本に返還した方が良いでしょう。


                                  敬具

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