つきかげ・サドンデス・ミーティング

つきかげ2ndミーティング、3rdミーティングと回を重ねた。でも、いつまで経っても参加者はわたしとアルチュちゃんだけ。まあそれでもいいんだけど、ちょっと寂しいのでツキカゲさんにもっと案内を拡散したらどうかって言ってみたんだけど・・・


「すみません、わたしが主催者ではないんですよ」

「え? ツキカゲさんじゃないんですか?」

「ええ。いつもDMでSNSを見なさい、って指示がよく分からないアカウントからあって。わたしもその時初めて開催を知るんです」


顔を見せない主催者。

なんともまあミステリアスな。

もっとも主催者以前に毎回ファンタジー小説のヒロインみたいな清楚すぎる服装をしてくるツキカゲさんこそミステリアスだけれども。

そして、月末の最期の金曜日。アルチュちゃんからテンション上がるLINEが入った。


アルチュ:エルリーさん、わたしのフォロワーさんが今夜のミーティングに参加するそうです!

エルリー:おお、やったね! で、どんな子?

アルチュ:普段からとっても優しいコメントしてくれる男の子です!


ところが。


「なんだこの稚拙な空気感は。もっと幻想的な大人の夜会をイメージしてたんだが」


どっかと足を組んでついでに腕も組んで座る、高校生男子。

ネガ、って名乗った。


「キミがアルチュかい? まあ容姿はそこそこだが軽さって感覚が皆無だね。SNSでの恥じらいは狙ってやってるのかと思ってスマートさを感じてたけどがっかりだよ。素のまんまじゃないか」


イケメン、ではあるのだ。背はそんなに高くなく、可愛い系の。だから余計に腹が立つ。


「ちょっとネガくん。アルチュちゃんは友達でしょ? もっと優しくしてあげなよ」

「は! 友達!? ネット上の繋がりが!?」


なっ・・・!?


「エルリーさんって会社員なんでしょ? そんな中二病みたいなこと言ってるから査定良く無いんでしょ? あ、想像ですけど」


ムカムカムカムカしてきた時にツキカゲさんが天然さを爆発させた。


「ネガさんって、が実体化した人みたいですね」

「は、はあっ!? アンタこそなんだよ。それ、コスプレか!?」


ネガくんがツキカゲさんのフリル満開の黄色いワンピースを指差して誹謗中傷した。こともなげに返すツキカゲさん。


「ふだん着ですけど」


ちっ、と呟いてカシスオレンジ風のソフトドリンクを煽るネガくん。アルチュちゃんが頑張って口を開く。


「ネ、ネガくん・・・わたしが『全部やめたい』ってコメントした時返信くれたよね。『じゃあ俺も全部やめるよ』って・・・すごく嬉しかったの・・・」

「ふ、ふーん? たまたまそういう気分だったんだよ、その時は」

「それから、わたしが大雨の後、橋に行ったも、ネガくんの『大丈夫?』っていう返信のバイブが胸で鳴って・・・それで跳び降りなかったの」


あらら。なんという・・・

わたしが言おうかどうしようか迷ってる時にツキカゲさんが突然、


「あー、わかりましたー!」


と、大きな声を上げた。


「ネガさんはアルチュちゃんのことが好きなんですね!!」


全員、ストップ・モーション。


「いやいやいや!」

「え? え? え?」


ネガくんとアルチュちゃんの反応。分かりやすいよね。

ならば、わたしがキューピッドになって進ぜよう。


「ほら。ネガくん。あれを見て」


今日の会場であるホテルのビアガーデンが終わったあとの屋上から夜空を指差すわたし。その先には暖色の半月。


「あの月影つきかげがあまねくみんなを照らすようにアルチュちゃんのココロを照らしてよ。好きって言ってあげなよ!」

「そ、そんなんじゃないんだよ!」


お。ネガくん。『妹みたいな存在なんだ』なんて訳のわかんないこと言うんじゃないよ。


「アルチュを見てると全部俺の2年遅れなんだ、やることなすこと。だから先回りしてなんとかしてやりたいだけなんだ。キツいこと言ったのも、人付き合いは選んでしろよ、って意味なんだよ」


あら。悪かったわね。


「ネガくん。月影つきかげミーティングはとっても優しいよ。ツキカゲさんもエルリーさんもわたしのこととても大切にしてくれるよ」

「でもそれだけじゃダメだろ? アルチュは来年受験だろ?」

「うん」

「高校、どこ行くか考えてんの?」

「ううん。だってどこに行っても同じだもん・・・」

「違うぞ、断じて違う! 俺はね、いじめが起こる確率が一番低い高校を探して探して今の学校に決めたんだ。もう中学までみたいな日々から卒業するために。パシリもサイフもサンドバッグも」


あ。意外。ネガくんがそうだったんだ・・・


「ねえ、アルチュ? 高校は義務教育じゃないからさ。アルチュがその気なら学校選びいくらでも協力するよ?」

「はい、決まりましたね」


ツキカゲさんがパンパンと手を打った。


「ではネガさんも当ミーティングのレギュラーメンバーですね」

「ああ。不本意だけどまあいいよ。アルチュのためだ」

「では、固めの杯を。掟ですから」


あれ? そんなのなかったけど・・・


「ではっ! 酸味ギュギュッと、シロップどぼどぼ、ソーダをすかーっとかき混ぜたレモンスカッシュ! アルチュちゃん、一口!」


かわいらしい唇を小鳥のくちばしのようにグラスにつけてこくんと一口。


「はい。じゃあ次はネガさんに」


あ。

アルチュちゃん、ナイストス!

になるようにグラスを渡されたネガくんがごくごくと喉を鳴らした。


「はい〜! 間接キッス成立でーす!」

「わーわー! ネガくん、責任取ってね!」

「ツ、ツキカゲさん、エルリーさん! ち、違うんです!」

「お前らっ! 中学生かっ!」

「わ、わたし中学生だけど・・・」


うーん。

青春!

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