3

「……陽炎の血族。聞いてわかるでしょ?」


いつもの優しい声とはちがった低い声に聞き入りながら、少しずつ近づいた。


「性行為をしたら死ぬ。性行為をしなくても餓死して死ぬ。

私の家は、治療を受けるお金も出してくれないし、もう死ぬしかないじゃない……」


少しずつ、泣き声が混じっていく。

泣き声が混じりながらも、いつもの優しい声に戻った。


「でも。もし性行為をして死んだら、私から生まれた子が、今度は苦しむことになる。それだけじゃない。私の子孫が、だんだん後世まで苦しみを与えていく」


そして、涙が浮かんだ顔で、いつもの笑みを浮かべた。


「だから、私は子孫を残さないで死のうとしたの。だけど、餓死するのは嫌。

そんな時に、杏子さんに相談したの」


そういえば、杏子は宮川さんと小学校が一緒だったなと思い出した。


「杏子さんは、私の話を聞いてくれた後。あなたが私の事を好きだと教えてくれたわ。

修美さんにも聞いたら、同じことを教えてくれた。


こんな人生だったけど。私を愛してくれた人の中で死ねるなら、1番良いと考えたの」


夕陽にキラキラと、宮川さんの涙が輝いた。

夕日は落ち始め、空は紫がかっていく。


宮川さんは涙を拭くと、私の前で手を合わせた。


「ごめんなさい。中浜さん。私がわがままだった」


宮川さんの困ったような笑顔が、紫色の窓からの光に光る。

頰がキラキラと光っていて、まるで宝石のようだった。


「ごめんなさい。さようなら」


宮川さんはそっと、カバンを持って、教室を出ようとした。


そっと、宮川さんの手を握って、私の方へ引き寄せる。

宮川さんが驚いてこちらを見た。

その表情を見たのは一瞬で、私は宮川さんの体を抱きしめた。

最近何も食べてないからか、宮川さんの体がとても冷たい。


「いいよ。私が、宮川さんを堕として愛してあげる」


宮川さんは私の腕の中で、静かに泣き声をあげていた。


「ありがとう。中浜さん」


柔らかく、優しい声が聞こえた。

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