第35話

「マーリン、牽制しろ!」






「了解! 光弾シャイニングバレット!」




マーリンは光の魔力弾で弾幕をはる。ただそれだけでない。


光弾は眩しいので目くらましも出来るのだ。


さすが賢者、魔法の使い方が分かってるな。






「どりゃあ!」




ゲーデルは突然持っている剣を弾幕に隠れるように投げた。




何やってんだあのオッサン!?


剣王って剣を投げて戦うの!?




そう思っていると魔力弾が全てカオスドラゴンに直撃する。






「こんな魔法、効かんわ!」






「おおお!!」




すると、ゲーデルはカオスドラゴンの目の前に移動していた。




どうやってあそこまで!?






「瞬間移動だと!? 剣士がなぜそのような高等な魔術を!」






「コール[ドラゴ・バスター]」




すると、大量の魔力がゲーデルの剣から放出され、剣が赤色の光を帯びて巨大な剣に変わる。




凄い魔力量だ……!


それに、ゲーデルの魔力の形も変わっている。






「真・破邪滅龍刃!」




怒涛の三連撃。


ゲーデルは巨大な剣を目にも留まらぬ速さで振る。




巨大な剣から放たれた斬撃はカオスドラゴンの胸部に爪痕の様な傷を負わせる。






「凄い! あのカオスドラゴンに傷を負わせるなんて!」






「ぐはぁっ!! 体が重い……何をした!!」






「ふふっ、ただの魔力弾なんか撃つわけ無いじゃないの。しっかり【極・鈍足】の魔法も付与されて貰ったわ。慢心したわね、カオスドラゴン」






「おのれ……貴様ら全員、許さんぞおおおおおお!!」




カオスドラゴンはいっそう魔力を込めてブレスを放つ。


高濃度の混沌のブレス、当たればたとえ勇者パーティーでもひとたまりもない。






「みんな逃げろ!」






「レイン、俺に任せろ!」




俺は空に飛び上がる。




そうだ。戦ってるのは俺だけじゃないんだ。


それぞれの得意分野で活躍すればいいんだ。






「アイギスの盾!!」




俺は魔力を最大限込めて光の壁を目の前に展開する。




街をこれ以上壊させる訳には行かない!


ここで何としても食い止める!




俺の魔力とカオスドラゴンの魔力が正面からぶつかる。


しかし、さすがは伝説のドラゴン。


ブレスの威力は凄まじく、最大限魔力を込めたアイギスの盾がミシミシと音を立てている。






「アル! 負けるな! 押せえええ!!」






「おおおおおお!!」




バァン!!




あまりの魔力の多さにブレスもアイギスの盾も勢いよく弾けた。






「どうだカオスドラゴン……相殺、してやったぞ……!」






「この我が……人間ごときに……」




よし、動揺してる!


この隙に叩けば……!






「今だ! 行けえ!!」




俺は落下しながら叫ぶ。


ダメだ。もう魔力が全然残ってない。誰かキャッチしてー……






「よっと。流石ですわ、アルバートさん」




そう思っているとサンドラが俺をキャッチしてくれた。


俺がサンドラにお姫様抱っこされているのだ。




逆だよなぁ……男としての自信失うわ……






「行くぜ! 二丁板斧!!」




するとフロウから魔力が放たれ、斧が二つに増える。


そしてそのどちらの斧も凄まじい闘気を纏っており、金色に輝いている。






「闘魂乱斧!」




フロウは金色の斧をまるで踊り子の持つ扇のように華麗に振り回す。


金色の軌跡が混沌の魔力で暗くなった空でいっそう輝く。






「ぐおおお!? ……人間ごときが、図に乗るなああ!!」




カオスドラゴンはヤケになって暴れる。


爪を振るうと衝撃波が生まれ、尻尾を振るうと風の刃が生まれる。






「くそっ、近付けねぇ……!」






「街にも被害が!」






「俺に任せろ!!」




すると、レインが魔力を体に集める。


普通の人間では魔力が暴発して四肢がもげるレベルの魔力量だ。






「最大出力! 勇者の光ぃ!!」




魔力量が爆発的に増加した瞬間、レインの体から眩く、神々しい光が放たれる。






「ぐあぁ!! 体が……動かない……!」




勇者の光がカオスドラゴンを包むとカオスドラゴンから放たれていた混沌の魔力が抑えられ、カオスドラゴンの動きも止まる。






「今だ! 行けえ!!」




それを聞き、フロウとゲーデルが飛び出す。






「サンドラ……大丈夫。俺も行ってくる……」




俺は回復魔法をかけ続けてくれているサンドラにそう言って立ち上がる。






「無茶してはいけません! まだ傷は痛むはずですわ!」




うん、サンドラの言う通りだ。


正直言ってまだ全身が痛い。






「でも、無茶しないとあいつは倒せないだろ……!」




俺は全身に魔力を流し、身体強化を発動する。




くっ、傷が痛む……






「コール[龍神剣・陽炎]」




ゲーデルがそう言うと彼が持っていた巨大な剣が日本刀のような剣に変わる。






「龍神流奥義【暁】」




ゲーデルは紅色のオーラを纏い、剣をゆっくりと鞘から抜く。




ゴォッ!!




凄まじい気迫が放たれたその刹那、ゲーデルがカオスドラゴンの背中側に移動していた。






「【逢魔】」




突如、カオスドラゴンが上下真っ二つになる。






「っ!?」






「ぐおお!? まさか、我が人間なんぞにぃ!!」




カオスドラゴンは真っ二つにされて力なく地面に落ちていく。




言わないぞ……フラグ立つから言わないぞ……






「まだだ! まだ完全にやったとは言えねぇ!」






「フロウ、俺を飛ばせ!」




俺は飛び上がり、フロウの前に出る。






「能力変更:防御力を攻撃力に」






「いっけええええええええええええええ!!」




フロウは斧で俺を勢いよく吹き飛ばす。


俺は真っ二つになったカオスドラゴン目掛けて飛ぶ。




Gで体が引きちぎれそうになるが剣を離さぬようにしっかりと握る。






「付与魔法エンチャント:ウインド、【風の衣】【エアリアルソード】!!」




俺は風の衣で更に加速し、カオスドラゴンの目の前で無数の斬撃を放つ。


外皮は堅くてとても斬れはしないが体内は別だ。


俺の斬撃はカオスドラゴンを内側から切り刻む。




カオスドラゴンだった肉片はドォンと大きな音を立てて地面に落ちる。


魔力反応も無くなった。


奴は絶命した。






「ふぅ……終わったか」






「やっ……たぁー!!」






「勝ったぞー!!」






「伝説のドラゴンに勝ったんだー!!」




カオスドラゴンを討伐し、全員が歓喜する。


長いようで短い戦いだったな。






「待って! 何か、おかしくありませんか?」




サンドラが何かに気づいたようにそう言う。




おかしい所? 特に見当たらないが……


ん? カオスドラゴンとは別の魔力反応が遠くから近づいてくる?


数が多すぎる!


軽く5万はいるぞ!?






「何かが近づいてきてる! みんな気をつけろ!」




俺は全員に注意を促す。


すると、集団の中から一際目立つ魔力反応が速度を上げ、近づいてくる。




ドォン! と、地面を割ってやって来たのは角が生えた肌が白い魔人だった。






「何者だ!」




レインが前に出てそう言う。


レインは剣を抜き、いつでも戦える体勢だ。






「待て待て早まるな、勇者レイン」






「っ!? 何故それを知っている!」






「何でって、俺が魔王だからさ」






「魔王だと!? 何故こんな所に来た! まさか、弱っているところを狙って来たのか!?」




魔王だと!?


何故こんな最悪のタイミングで……


レインが言った通り、弱った俺たちを一気に仕留めるためだとしたら最悪だ。


全員既に疲れきっている。


怪我は無くとも精神的にも疲労が大分きているはずだ。






「俺たちは忠告しに来たのだが……遅かったみたいだな。お前達、覚悟しておけよ」






「くっ、ここは俺に任せろ! 魔王! 俺と勝負だ!」






「そう言う意味じゃない。お前達がカオスドラゴンを倒した事を言ってるんだ。世界が終わる覚悟をしておけよ、という事だ」






「何の話をしている……? 世界が終わるだと?」






「カオスドラゴンが完全体では無かったとはいえ、お前達もカオスドラゴンも魔力を大量に使った。だからここら辺一帯には魔力が溜まっている。奴を呼び出すには充分すぎる程だ……」






「ご名答。流石は聡明な魔王様ですねぇ……やはり人間側で活動していて正解でしたよ……」




当然、後ろから声が聞こえた。


魔力感知を掻い潜ってきただと!?






「お前は……何で……」






「ふふ、びっくりしましたか? アポピスに潰されたと思ってたんでしょ?」




そこに立っていたのは新世界のボス、レンだったのだ。

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